トップシークレット 15 雅の変化がわからないのか、頓着していないのか。表情を変えた雅に、委員長は和やかな笑みを崩さぬまま言う。 「椎名くんが教えてくれたよ。すごく気合いが入ってるんだって?きみはそういうタイプには見えなかったけど、そうであるならこちらとしても大歓迎だよ」 「…椎名がそんなことを?」 「ああ。きみが委員だと聞いてすぐだったかな。生徒会もあるのに大丈夫かと思ったが、それなら問題ないね」 舌打ちをしなかったのは奇跡だ。奴の用意周到ぶりには感服すらする。 (だから俺が委員をやるのが素直に受け入れられてんのか) クラスで委員を決めたときだけでない。すでに実行委員長のほうまで、椎名から上手く言い含められていたのだ。 「…やっぱり雅くんて、椎名くんと仲良いの…?」 それまで空気のようだった鈴木にまで再度そんなことを言われ気が遠くなる。 冗談じゃなかった。 雅はわずかに睨むことで鈴木を黙らせると、委員長へ問い掛けた。 「あんた椎名を知ってるのか?あいつは実行委員でもなんでもないだろ」 当たり前のように椎名の名前を口にする様子に違和感を覚え訊ねると、委員長はあっさりと頷いた。 「そうだよ。彼とは一年のとき同じクラスだったから」 「…そういうことかよ」 苦々しい声音が零れる。その繋がりを利用して、椎名はまんまと雅を実行委員にしたのだ。 思いの外、雅は恨みを買ってしまっているらしい。 ここまで来ると彼の嫌がらせから逃れる術はないだろう。 今度こそ舌打ちし、雅は踵を返した。 「俺帰るから。実行委員はちゃんとやるよ」 「ああ、期待しているよ」 恐らく、あの柔和な笑みを浮かべているだろう委員長を振り返ることなく、雅は会議室をあとにする。 ここまで綿密に計画されていたのなら、いっそとことん乗ってやろうという挑発的な気持ちになっていた。 さすがに苛立ちを隠しきれなかった。なぜここまでのことをされなければならないのか。 (なにか…どこかで恨みでも買ったのか…?) 無愛想な自身を自覚していただけに、椎名が嫌がらせをするのはそのためだろうと直結させて考えていた。だがもしかしたら違うのかもしれない。 暗いものが胸を過ぎる。怒りでなく恨みでもって嫌がらせをされるのは精神的にもくるものがある。 できることなら、そうでないことを祈りたい。 階段を下り、正面玄関へ出る。部活中の生徒がいない廊下は静まりかえっており、足音が遠くまで響いていた。 白いコンクリート剥き出しの壁が、嫌に冷たい。 クラスごとに分けられた下駄箱に行くとふいに人影が現れ、雅は驚きとともに立ち止まった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |