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Brother in law
07
学園での生活は、曜介がいることを除けば、可もなく不可もなかった。

黒板のまえで教師が板書し、それをノートに写す。
クラスで気が合いそうな相手と行動をともにする。

だからといって、特別心が動かされるということもなかった。表面上は笑っていたが。

いつものように、午前の授業を終えて友達と教室にいると、秋羽に来客があった。

(――ゲ…)

その相手に周囲も気付いて、教室が賑やかになる。
あからさまに手を振って騒いでいるのもいれば、好奇心丸出しの眼を向けているのもいた。

(俺まで注目浴びるじゃん…)

行きたくない気持ちを押し殺して、秋羽は待ち人のいる扉口へ行く。
背中に突き刺さる多くの視線が嫌で、俯きがちに応じた。

「俺になんの用ですか…?目立ってるんですけど…」
「うん、ごめんね。いきなり押し掛けて。少し教室出てもらって良いかな?」

拒絶したかったが、教室で話すのも人目があって落ち着かない。

(なんで…この人が…)

秋羽は人好きのする笑みを浮かべ、慣れた仕種で手を振り返している黒渕を上目に見る。
共通点は曜介だが、姿がないので別の用事なのだろうか。

黒渕のあとに付いて行くと、階段に続く踊り場に着いた。

秋羽と向き合った黒渕は、眉を下げる。

「そんなに恐い顔しないでよ。騒がせちゃってごめんね」
「……」

口では殊勝なことを言っているが、柔らかな表情に反省の色はない。
時折通っていく生徒に居心地の悪さを覚えつつ、秋羽は話しを促した。

「じつは弟ちゃんに、生徒会の仕事を手伝ってもらえないか、頼みに来たんだ」
「生徒会の仕事…!?」

黒渕が生徒会長なのは周知の事実だが、それがなぜ秋羽に声を掛けてくることになるのか。

「春から今の生徒会になったからか、まだ慣れないことが多くてね。生徒会がうまく回らないんだ。仕事も増える一方だし……とくに今年」
「今年?」

気になる言い回しをされ、秋羽は思わず繰り返す。

「学園に目安箱があるのは知ってるでしょ?」
「正面玄関に入ってすぐのところですよね」

入学式の日に担任から説明があった。生徒が学園内の要望や意見を言いやすいよう、だれでも通る正面玄関に目安箱をつけているのだと。生徒会が中身を確認し、学園の運営に活かしているということだったが。

黒渕は眉間を深くすると、珍しくその顔に憂いの色を浮かべた。

「箱の中身は、大半が意味のないものばかりなんだよ。どうすれば曜介に近付けるかとか、見てても睨まれないで済むかとか」
「………………」
「挙げ句に、今年入った弟をだしに使っても問題ないか、だって。そんなん知るかって感じだよねえー」

黒渕は明るく言ったが、言い方に棘があるのは気のせいじゃないはずだ。

(この人…絶対怒ってる…)

それはわかったものの、手伝おうと思えない。

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あきゅろす。
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