Brother in law 05 「な…なに?」 見詰められ、体温が上がった。曜介の眼力が強くて、眼を逸らしたいのに逸らすことができない。 「お前、変に真面目だから、この学園に馴染めねえんじゃねえ?クラスメートとやっていけそうか?」 「なに言ってるの…。問題ないよ。つるむ相手もできたし、兄さんに気遣われることはなにも…」 「潔癖なとこあるじゃん、お前。男同士で付き合ってる奴らいるけど、嫌じゃないか?」 じわりと汗が滲んだ。中学生のときの出来事を、曜介が言っているのだとわかった。 曜介が家に女を連れ込んだ、あのときだ。 「いつの話を言ってるの?俺もう高校生だよ」 「高校に上がれば性格が変わるってもんじゃねえだろ」 曜介がなかなか退かず、焦りばかりが募る。 中学生のとき、泣きたい気持ちを押し殺して、夜の街へ逃げた秋羽を、探して迎えに来たのは曜介だった。 家に帰った秋羽は、曜介にいじめられて家出をしたことになっていた。悪いのは、全部曜介になっていた。 あれ以来、曜介は女を家に連れて来ない。 「とにかく大丈夫だから。変なこと聞かないでよ」 秋羽は視線をもぎ離して、テレビに集中する。 曜介はこうやって、ときどき兄っぽいことを言ってくる。普段が問題児なだけに、そのギャップが大きくて困るのだ。 (兄さんが俺を心配してるわけないし。どうせ口煩くて、潔癖な石頭だって思われてる) だいたい、秋羽が男同士の恋愛を苦手とするはずがない。 失恋してもなお、曜介が好きなままなのに。 (俺は兄さんの弟でいられればいいんだ。期待したって、どうせ裏切られるだけだし) 曜介のベッドでの仕種を見てしまったあの衝撃は、今でも忘れることができない。 すっかりテレビに向いてしまった秋羽を見て、曜介も諦めたようだ。 「なら良いけど。なにかあったら、俺に言えよ」 「…どうにかしてくれるの?」 秋羽はテレビから、ちらりとベッドの上を見やる。 「俺でできることなら、してやるから」 「…なんだか、流血沙汰の事態になりそうで恐いな」 「バーカ、やり方は暴力だけじゃねえんだよ」 「……」 それはどういう意味だろう。聞きたいときに限って、曜介はこちらを見ていない。 秋羽の視線の先で、曜介は寝返りを打って壁を向いてしまった。 「じゃ、おやすみ」 「はあ!?おやすみじゃないよ!寝るなら自分の部屋に戻ってよ!図体でかくて邪魔!」 「うるせえなあ。ほかじゃ、おちおち寝られねえだろ」 「意味わかんないけど」 「寝て起きたら、知らねえ男が腹に乗ってるとか恐怖だろ」 「………それ、モテ自慢?」 「恐怖だって言ったろ?」 曜介はそう言うが、秋羽は複雑な気持ちになる。 曜介狙いの男に、襲われかけたことがあるのだろう。それも一度や二度じゃなく。 一人で寮生活をしていた去年、曜介はどんな生活を送っていたのだろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |