Brother in law 04 「……すっごい邪魔」 なんの嫌がらせなのか。 学園から寮の部屋に戻ると、施錠して出たはずなのに、ベッドを占領する曜介がいた。 熟睡しているようで、物音を立てても起きる気配がない。制服じゃなく私服を着ているところを見ると、一旦自分の部屋に戻ってから、わざわざ来たようだ。 「兄さん、起きてよ」 声をかけたが、返事はなかった。寝息を等間隔に繰り返すだけだ。 秋羽は肩にかけていたかばんを床に落とす。枕元まで行き、寝顔を見下ろした。 (無駄に整った顔…) 起きているときはわからないが、瞼を閉じていると睫毛が長いのがよくわかる。 外に出るのが好きで、ほどよく陽に焼けた肌は、なめらかな曲線をえがいている。 触れてみたい。 衝動に抗えなくなりそうで、秋羽は唇を噛んだ。 「早く起きてよ、バカ曜介」 少し強い口調で言うと、閉じていた瞼がぴくりと動いた。 「ん…?秋羽…?」 起き抜けの、掠れた声。色っぽくて困ってしまう。 何人の女性に、そんな姿を見せてきたのか。 「すごいね。バカって言ったら、兄さん起きたよ。よっぽど自覚あるの?」 「――はっ!?」 顔を覗き込んで言ってやれば、曜介が飛び起きた。 しかしまだ頭がはっきりとしないようで、頭を押さえ、瞳を細める。 一瞬眼にしただけなのに、その表情が頭から離れなくなる。 (無駄にかっこいいんだから…。本当…嫌になる) 寮の部屋はすべてワンルームで、一年と二年は二人部屋が基本だ。しかし秋羽は部屋割りのときに一人だけ余ったとかで、一人部屋を割り当てられていた。 つまり部屋には秋羽と曜介の二人きり。どこにいても曜介の気配を感じてしまい、落ち着かなかった。 「…兄さん、なにしに来たの?てか鍵はどうしたの」 「このまえ、お互い合鍵を交換したろ?それ使ったんだよ」 「早々に使わないでよ。プライバシーがないじゃん」 「一年のくせに一人部屋なんて生意気なんだよ。俺は二人部屋だってのに」 いい加減起きたはずなのに、曜介はベッドに寝直し、天井を眺める。帰るつもりはないようだ。 「日頃の行いじゃない?だいたい、俺は兄さんと同じ部屋になった人に同情するね。迷惑かけてるんじゃない?」 そう言って、秋羽はそっと曜介を窺う。 同室者とは仲が良いのか。その人を気に入っているんだろうか。まさか学園の特色に染まって、毎晩その人と寝ていたり…。 「毎朝、目覚まし時計の音で迷惑かけてるかもな。俺、三個ないと起きれねえし」 「…ああ、あの音は強烈だよね」 秋羽は肩に入っていた力を抜いた。どうやら杞憂だったようだ。 ネクタイに手をかけ、首元から引き抜く。私服に着替えたかったが、曜介のまえで脱ぐのは憚られた。 仕方なく、秋羽はソファーに座ってテレビを点ける。 テレビのチャンネルを次々と換えていると、曜介から声がかかった。 「お前、友達できそうか?」 「――は?」 思わず手が止まった。 テレビに向けていた視線を曜介に移す。すると、いつから秋羽を見ていたのか、曜介と瞳が合った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |