Brother in law
03
母親が再婚するまえ、秋羽は家に一人でいた。
悲しいことや、つらいことはなかった。でも楽しいこともなかった。
不満はなかったが、世界は常に灰色だった。そこに色を落としたのが、兄になった曜介だった。
出会ったときから自由人で、我が道をいくタイプ。その自由奔放さが眩しくて、眼を離すことができなかった。
その気持ちが恋心だと知ったのは、兄弟になった二ヶ月後、中学校から帰宅した秋羽は、家に鍵がかかっていたため、だれもいないと思って家に入った。
しかし二階に行き、曜介の部屋を通り過ぎるとき、室内から声がした。
「―――」
女のものだった。掠れていて、甘ったるい声音。
心臓が嫌な感じに早鐘を打った。
見ちゃいけない。そう思ったのに、震えそうな指先をドアのぶに伸ばしてしまった。
薄く扉を開けて、見た先。
急速に血液が下がり、顔が青ざめた。泣きたいくらいの衝動を覚えたのは、あのときが初めてだった。
恋心を自覚して、失恋した。
叩きつけるようにして扉を閉め、秋羽は家を飛び出した。
行くあてがなく、向かったのは夜の街だ。
それが秋羽の最初で最後の非行だった。
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