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Brother in law
02
高校に着いてすぐに、二年の教室に行く。
まだ秋羽が入学して一ヶ月足らずだというのに、自分の教室に行った回数と同じくらい、この二年一組の教室に通っていた。

だれかこの苦労をわかって欲しい。

「兄さん、また俺の財布から金取ったね?」
「あ?」

金髪に染め、ピアスをつけ、いかにも素行が悪そうな風体。
ブレザーのはずなのに首元にネクタイが見当たらない。どうせ息苦しいとかいって、寮の部屋に置いてきたのだろう。

中学生のときにいきなり兄となったこの男は、クソが付くくらいの自由人なのだ。

「やだね。俺の財布の中身、知ってるか?700円だぞ?今日の昼飯で消えるっての」
「またなにに浪費したの?マンガ?CD?洋服?あまりひどいようなら、今度から財布ごと預かるから」
「はあ!?」

問答無用で宣言すると、兄の曜介は机を叩いて身を乗り出した。

「…うるさいよ、兄さん」
「お前がふざけたこと言うからだろうがっ!お前は俺のおかんか!?俺より偉いのか!?」
「兄さんに財布持たせたら、三日で遣い切るでしょ。生活費は俺と兄さんの分、まとめてもらってるんだから、無駄遣いはさせないよ」
「いや、弟なら兄貴に財布任せておけよ」
「兄さんに財布任せたら、一週間で破産して夜逃げコースだね」
「くそ…かわいくねえ」

舌を打って、ふざけたことを言う曜介に、秋羽は呆れて顔をしかめた。

「なに?弟にかわいさ求めてたの?病院行けば?」
「てめえは年長を敬う心ってのを養ってこい!」

口が悪く、金遣いが荒く、素行も褒められたものじゃない曜介だが、顔と身体は一級品だった。

身長は180センチを超え、シャープな印象の顔立ちに、眼鼻がバランス良く配置されている。
手足は長く、金遣いが荒いだけあって、お洒落でかっこいい。
中学校にあがるまえから夜遊びをしていたそうで、経験は豊富。荒削りながら、ケンカで鍛えた身体も魅力的だった。

(あーあ…、こんなバカ兄に見惚れるなんて、どうかしてるよ)

教室を見渡せば、かわいい顔をした生徒達がまばたきもせずに曜介を見詰めている。かわいい顔といっても全員男だ。

全寮制の男子校である森咲学園は、男と男が付き合うことが平然とまかり通っている、世間とは一線を外した高校なのだ。

「その辺にしておきなよ、曜介。弟ちゃんがかわいそうだろ?」

一連のやり取りをおもしろそうに見ていた男がいた。曜介の友達で、同じクラスの黒渕廉。

身長は曜介と同じくらいあるが、細い髪質と白い肌のせいで、かっこいいより綺麗という言葉が似合う。
生徒会長を務めており、学園での人気は絶大だ。
そんな黒渕が、なぜガラの悪い曜介と友達なのか、秋羽は入学当初から疑問だった。

曜介は苛立たしげに眉を寄せる。

「どう見たって、かわいそうなのは俺だろ?どこに眼付けてんだ」
「こんな恐いお兄ちゃんの面倒を見てるんだから、十分かわいそうだよ。ねえ?」

最後の問い掛けは秋羽に向けられたものだったので、秋羽は仕方なく答えた。

「父から、兄の面倒を見るよう言われているので」
「あんのクソ親父!」
「曜介は本当信用されてないんだねえ」

文句を言う曜介に、黒渕は笑っている。
かっこいい男と、綺麗な男。眼福なのかもしれないが、見ていて楽しい光景じゃない。

「じゃあ兄さん、お金は返してもらったから」
「は!?いつの間にっ…」
「700円だけ残しておいたよ。節約がんばって」
「おい、秋羽!」

引き留めようとする声を聞かず、さっさと教室を出る。
座ったとき邪魔だからと、曜介は財布をかばんに入れる。弟をやるのも四年目ともなれば、だいたい相手の習性は把握していた。

去年は寮に入った曜介と、離れて暮らしていた。今年から同じ寮生活となる。

「俺…はやまったかな」

溜め息を吐いて、秋羽は自分の教室に向かった。

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