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Brother in law
16
足を止めて、窓の外を見る。秋羽が眼を奪われていると、まえを歩いていた鈴木が振り向いた。

「それにしても、びっくりしたよ。大風が生徒会なんて。もう慣れたのか?」
「…え?」

内容が遅れて頭に入ってきて、秋羽は慌てて顔を上げた。取り繕うように笑みを浮かべる。

「少しずつね。仕事量が多いから大変だけど…」
「あの生徒会メンバーと一緒にいられるだけでもすごいよー。ぼくなら絶対ムリだもん」

そう言って、宮川は肩を落とす。
おそらく美形集団と評されている生徒会と近付くのが嫌なのだろう。
しかし秋羽には、あの輝きは大した威力じゃない。

「俺には兄さんがいるから、いまいちぴんとこなくて…」
「大風の兄貴も凄まじいもんなあ」
「美形が近くにいると美形を見慣れるんだねえ」
「はは…」

自分の兄を褒めるかたちになって居心地が悪いが、秋羽が生徒会をそう特別な集団と感じないのは、やはり曜介の存在が大きいのだろう。

(顔がいい人って、みんな個性的なのかな。あの人達、顔はどうってことないけど、性格が強烈…)

そのとき、左から肩を引き寄せられ、秋羽はバランスを崩す。目の前にいる鈴木と宮川が大きく眼を見開いた。

「さっすが大風の弟は言うことが違うねえ。俺なんかたいした男じゃないって言われたみたいで、久々に燃えるよ」
「南先輩…!」
「よう、秋羽。こんなとこで会うなんて奇遇だな」

整った顔立ちに間近で微笑まれ、秋羽は瞠目した。左半身に南の体温を感じるが、そんな接近した身体よりも、秋羽には気になることがあった。

「奇遇?本当ですか?先輩達と関わるうえで、奇遇なんてあるんですか?」
「俺が待ち伏せしてたとでも言いたいのか?お前、黒渕に毒されたなあ」
「……先輩達は笑顔で他人を罠に陥れるんで」
「心外だよ」

疑わしいと隠しもしない瞳でじっと南を睨んでみたが、南は笑顔を崩さず返事も軽やかなままだった。

(やっぱり信用できない…)

秋羽がどれほど眼尻を険しくさせても、南にはまったく効いた様子がない。実際、秋羽など赤子の手を捻るようなものなのだろう。

生徒会の面々は、外見よりも内面のほうが厄介だった。

黒渕は仕事のためなら手段を問わないし、黒渕からこき使われる秋羽を星草はかわいそうと言いながら見捨てまくっている。南は言わずもがな、自由気ままに男を口説いていた。

男どころか女からも口説かれたことがないため、毎度対処に困るのだ。

(金丸先輩は唯一無害だけど…)

そもそも口数がないに等しいので、いてもいなくても変わらない。

恐るおそる秋羽と南を窺っていた鈴木と宮川に、南は気安い仕種で手を外側に振る。

「悪いけど、秋羽と話したいから、少し借りていいかな」
「え…と、」

友人達は二人して顔を見合わせる。
すかさず、俺はものじゃないと反論したが、平凡な彼らが南に言い返せるはずがなかった。

「良い友達持ったな、秋羽」
「………」

じっとりと睨み付けたが、やはり南はどこ吹く風だった。
さらに南は唇を吊り上げ、さきほど秋羽が眼を奪われていた光景を親指で示す。

「俺もあの二人を見てたんだよ。だからすぐに秋羽にも気付いた」

それは窓の下に広がる、グラウンドの一角の光景だ。
蛇口が横一列に並ぶ水飲み場で、曜介が三年のネクタイをした生徒と一緒にいた。

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