Brother in law
14
「こちら一年の大風秋羽くん。今日から生徒会を手伝ってもらうから、よろしくね」
「大風秋羽です。よろしくお願いします」
秋羽は早い動きで鼓動する胸を押さえ、頭を下げた。どんな反応が返ってくるのか不安だったが、それを吹き飛ばすように金髪の生徒が手を上げて立ち上がった。
「へえぇ、一年生なんだ。かわいいねえ。俺、南裕。会計だよ」
片眼をつむられ、秋羽は身を引きかけた。おまけに会計とは、曜介が気を付けろと言っていた人物ではないか。
「よ、よろしくお願いします…」
無難にそう返事をするのが精一杯だった。これまでの人生、男からウインクをされたことがない。
(すごくさまになってるけど…)
すっきりとした眼許は格好よく、言動にも迷いがない。しかし明るく脱色した髪と相まって、素行が良さそうとはお世辞にも言えなかった。
なにより、秋羽を値踏みするような視線が絡みつき、不快だった。
南の素行には慣れているのか、黒渕が視線を散らすように秋羽との間に入る。
「弟ちゃんは…、秋羽くんは、あの曜介の弟だから、下手に手出しちゃダメだよ」
「曜介って大風曜介?黒渕と同じクラスの」
南を挟んで扉側の席にいた生徒が口を出した。茶色い髪は固そうで、柔らぐことがなさそうな瞳は、彼が真面目であることを物語っている。
机の配置からして、書記なのだろう。
「そうだよ。あの問題児のね」
黒渕がそう言うと、彼は同情的な視線を秋羽に向けてきた。
「それで弟を手伝いに駆り出したってわけ?きみも苦労するね」
「は…」
「そんなわけないじゃーん!」
明るい声で割り込み、黒渕は秋羽の肩を叩いた。
「これは秋羽くんが平穏に学生生活を送れるようにと取った救済処置…!むしろ感謝して欲しいくらいだよ」
「あの…」
黒渕はそう語るが、ほかの三人を見るに鵜呑みにしないほうが良いだろう。
書記の生徒は秋羽のまえまでくると握手を求めた。
「俺は星草結城。書記をしてる。きみの立場を考えるとかわいそうだと思うけど、大風曜介の弟に生まれたのが不運だと思って…諦めて」
「え!?」
思わず星草の手を強く握ってしまう。驚いて視線を上げたさきで、星草はさっさと席に戻ってしまった。
「秋羽くん、最後に副会長の紹介だけど」
黒渕は座ったまま動こうとせず、話しに入らない長身の生徒を示した。
「彼が副会長の金丸御影。無口なだけで怒ってるわけじゃないから安心して」
「…よろしくお願いします」
秋羽が頭を下げれば、金丸はちらりと視線を寄越した。
「…よろしく」
ぶっきらぼうだ。一度も染めたことがなさそうな髪は短く、肩幅が広い。瞳も真っ黒で、その動きは少なかった。
無愛想だが、信用はできそうだ。
一通りあいさつを済ませると、黒渕が満足気に、その綺麗な顔に笑みを浮かべた。
「これが新しい生徒会メンバーだ。みんな仲良く、効率良く仕事をやっていこうね。これは会長命令」
「うぃーす」
返事をしたのは南だけだったが、あとの二人も異論はなさそうだ。
なんとかやっていけるか。
だが、そう思ったのは間違えだった。
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