Brother in law
12
いつもは考えるまでもなく言葉が出てくるのに、頭の整理が追い付かないのか、口を開いては閉じるを繰り返すだけに終わってしまう。
それに気付いたわけじゃないだろうが、曜介のほうから口を開いた。
「お前さ、生徒会手伝うんだって?」
「…え?…黒渕先輩から聞いたの?」
昼休みに決まったばかりのことを曜介が知っているのは、それしか思い付かない。
「そうだよ。お前が生徒会を手伝うなんて、いつからそんな親切になったんだよ?」
どことなく違和感を覚えて、秋羽はそろりと窺う。
立ち姿はモデルのように眼を惹くが、よく見ると曜介は瞳を細め、唇を引き結んでいる。感情の揺らぎがなかった。
(怒って…る…?)
曜介と言い合うことは日常的だが、秋羽のまえで、本気で怒ることはない。
秋羽へのささやかな気遣いと捉えていたが、こういうとき、どうしたらいいのだろう。
「今日から生徒会室行くのか?」
「そう…だけど」
「ふーん…、まあ、なんかあったら俺に言えよ」
「…なにかって?」
そう訊くと、曜介はぐっと眉を寄せた。
「廉の野郎…なんも説明してねえな…」
「兄さん…?」
低くもらされた呟きは、秋羽まで届かず、なかったことにされてしまう。
「生徒会の連中には、近付くな。とくに会計。来たらちんこ蹴っ飛ばして遠くに逃げろ」
「…………は?」
「あと廉に気を許すな。王子面に騙されたら、雑巾みたいにコキ使われるぞ」
「…………兄さんもたいがい酷い人だと思うけど。人のこと言えないよ」
「はあ!?なんで俺が出てくんだよ」
「自覚ないの?いいよね、顔だけ取り柄の人は。酷いことしても、かっこいいって騒がれて終わるし」
「……お前、俺に恨みあるの?」
間の抜けた質問に、秋羽はきっと瞳を鋭くした。
「兄さんて無駄に顔良すぎて無自覚過ぎ。男の敵…!」
言い返せずにいる曜介を置いて、秋羽はさっさと足を進めた。思わぬところで足止めを食らったため、生徒会が始まりそうだ。
曜介が追い掛けてくることはない。そんなことわかっていた。
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