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Brother in law
09
曜介は雑誌に落としていた視線を、教室の壁時計に向ける。

(あと十分じゃん)

昼休みが終わるまで、もうわずかだった。

黒渕は用があるとかで、教室を出ていったきり戻っていない。
生徒会の仕事じゃないようだったので、またどこかで告白でもされているのか。

「曜介ー戻ったよー」

呑気な声に促されて後ろを振り返る。曜介の背後の席に黒渕が着いたところだった。

「こんな遅くまでどこ行ってたんだ?」

曜介は膝の上で開いていた雑誌を、音をたてて閉じた。

「曜介の弟ちゃんに、生徒会を手伝ってくれないか、お願いしてきちゃった」
「は!?」

黒渕から目安箱のことで散々文句を言われてきたが、ついにキレたのだろうか。
しかし、あいにくだ。

「秋羽は手伝いなんかしねえよ。残念だったな」
「それがオッケーもらっちゃいました」
「…あぁ!?」

曜介は姿勢を正し、黒渕の机に手をついた。

「あのくそめんどくさがりな奴が?」
「くそって…。かわいい弟でしょうが」

呆れぎみに言われたが、日頃の秋羽の態度を思い起こせば、くそで十分だ。

「で、どんな手使った?まさか脅したんじゃねえだろうな?」
「そんなことしたら、お兄ちゃんが許さないでしょう?」

黒渕は軽い口調で言ったが、瞳は笑っていなかった。批難めいたものを感じ、曜介は無言で先を促す。

「脅すわけないじゃん。ただ、曜介を餌にしただけで」
「……」

自身の目付きが険しくなったのを自覚した。しかし、視線を緩めてやろうとは思わない。

「そんな恐い顔しないでよ。弟ちゃんは自分で考えて決めたんだから」
「てめえの策略だろうが」
「違うね。適材適所だ」

そう言って、黒渕は微笑む。

「曜介の弟なら、俺たち生徒会と一緒にいても、嫌がらせを受けないでしょう?曜介のファンだって、弟なら手出しできない。彼ほど、うってつけな人材はいないんだよ」

理屈はわかるが、だからといって快諾できるわけがなかった。

黒渕が思い出したように、ぼそりと付け足す。

「ねえ…あの弟ちゃんて、ブラコン?」
「……」
「曜介に、いやに執着してない?」

探るような問い掛けに、曜介は口を閉ざして、黒渕を見返した。

曜介と秋羽が血の繋がらない兄弟だと知るものは、学園にはいない。わざわざ言う必要性がない。

直接聞いたことはなかったが、秋羽も親が再婚するまで、兄ができるとは考えていなかっただろう。

曜介だって、自分が兄とは、ずいぶん笑える話だった。

(まあ、今も同じだけどな)

答えを待っている黒渕に、曜介は取って付けたような返事をしてやる。

「あいつは真面目なんだよ。だから俺みたいないい加減な奴が許せねえの」

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