Brother in law 08 「あの…だったら兄さんに、生徒会を手伝わせれば良いんじゃないでしょうか」 「ダメだよ。そんなことしたら、曜介に見て欲しさにどんどん目安箱の中身が増えちゃうじゃんか」 「でも…俺は関係ないと思います」 「わかってないなあ」 そう言って、黒渕は腰に手を当てた。 「曜介に近付く輩がきみを踏み台にしようとするのを、事前に察知させてあげようって言ってるの。いわばきみのため!」 「…………そうでしょうか」 生徒会の仕事を手伝わせたいだけだろう。 それに生徒会の面々は人気者がなるという風潮がある。手伝いとはいえ、一年が入ったらやっかみを買うだけだ。 「先輩が俺を入れようとしても、全校が許さないですよ。俺、いじめられたくないんで」 学園生活は平穏に、穏便にがモットーだ。 「ばっかだなあ。きみがいじめられるわけないじゃん。あの曜介の弟なんだし、曜介が黙ってないよ」 「…あの、さっきからやたらと兄さんを引き合いに出しますが…」 黒渕を見ていられない。 自分は曜介の弟ではあるが、血の繋がりはまったくないのだ。 三年前にぽっと弟になっただけ。曜介だって、血縁関係があるとないとじゃ、関心度が大きく違うはずだ。 (兄さんが守ってくれるわけないよ…) 黒渕が言っていることは現実とかけ離れている。そう伝えようとしたのだが、そのまえに黒渕が意味ありげに片眼をつむった。 「弟ちゃんだって、曜介がどんな目に合ってるか知りたいでしょ?」 胸の奥が、ずくりと動いた。 「生徒会で手伝いをしてれば、曜介をもっと知ることができる。すごく魅力的じゃない?」 ずっと秋羽が知りたかったことだ。曜介はどんな生活を送っていたのか。どんな人と付き合い、どんな関係を築いているのか。 「…口から…出まかせじゃないんですか…?」 「まさか。ぼくはウソを吐かないよ。信じて?」 黒渕と無言で視線を交わす。 こんな人間の言葉は信じられない。 (でも…兄さんのことが、少しはわかる…?) それならば賭けてみたい。 「俺…たいして役に立ちませんよ…」 「そんなことない。歓迎するよ」 全校を虜にする笑みを向けられた。秋羽は伸ばされたその手を、払うことができなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |