短編
05
気難しいという印象があったが、可愛い顔が見え隠れするのは透季の思い違いだろうか。
すると再び真理奈がぽつぽつと話し始めた。
「真理奈っていうのは、俺が産まれるまえ、両親が俺の性別を勘違いしたから付けられた名前で…。男ってわかったときに名前変えてくれればよかったのに…」
「男らしく、まりおとかが良かった?」
「………。…それは某ゲームみたいでやだ」
「なら良いじゃん」
透季は笑みを浮かべ、眼を合わせようとしない真理奈を覗き込む。
「俺は真理奈って名前、いいと思うよ。珍しくて可愛いじゃん」
「かわ、」
真理奈は声を詰まらせ、顔を真っ赤にする。
「あ、あんた、たらしだろ!?俺をからかって遊んでるんだろ!?」
「待って、どうしてそうなるの」
「だ、だって、男が男に可愛いとか…、おかしいし…」
俯いて小さな声で抗議するさまは、まさしく可愛いとしか形容できないものだった。
女に駄々を捏ねられたらすぐに冷めるのに、どうしてだろう、真理奈を面倒臭いとは思わなかった。
(いや…、むしろ…すげえ可愛い)
きっと彼が純真だからだ。困らせようと思って言っているんじゃなく、ただ恥ずかしがって照れているだけ。それがわかるから、もっとかまいたくなってしまうのだ。
「ねえ…真理奈って呼んでいい?」
「だ、だめ!」
「どうして?せっかく可愛い名前なんだから、呼んであげないともったいないよ」
「で、でもっ…、絶対、絶対にだめだからな!」
透季がいくら優しく諭そうとも、真理奈は頑なに了承しなかった。よっぽど名前が嫌なのだろう。
(俺が言って、言う通りにならないって、こんなことあったか?)
それも相手はお高くとまった女ではなく、ただの高校生の男だ。
可愛いうえに、一筋縄じゃいかない。
落ちない相手は落としてみたくなる。興味が湧く。
「野上、携帯出して」
「へ?」
ぽかんと見上げてくる顔に笑いを堪え、真理奈のシャツの胸ポケットから覗いていたスマホを抜き取った。
「あ!泥棒!」
「ちゃんと断ったよ」
取り返そうと手が伸びてきたが、透季は身長を活かして容易くかわす。
そしてアドレス帳を起動すると、ちゃっかり自分の連絡先を登録した。
「はい、返すよ。ありがとう」
「当然だろ!勝手に人のスマホ取るなんて、信じらんねえ!」
「はいはい、ごめんね」
誠意のなさを感じたのか、真理奈が唇を引き結んで睨んでくる。しかし頬が微かに赤いのを見てしまっては、怖さなどまるでなかった。
「俺の連絡先を登録しといたから。いつでも連絡してきて」
「…へ…?」
透季と携帯を交互に見比べ、真理奈は落ち着きなくあたふたする。
面白い。彼の反応のすべてが新鮮だった。
透季はその髪を撫でると、甘く微笑んだ。
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