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短編
03
「初めまして、大峰です。友人の松原に連れられて来ました。参っちゃうよね、強引で」
「こら、透季、俺のせいにするなよ」

すかさず松原が突っ込み、グループ内で遠慮がちながら笑いが起こる。緊張で堅くなっていた面々に、本来の表情が戻ったのだ。

真理奈も強張っていた身体が、おかげで弛緩していた。

(わざと和ませてくれたのかな)

真理奈は上目で大峰と名乗った青年を窺う。
涼しげな目元に高い鼻梁はモデルのようで、茶色く染めた髪を自然な形でうしろへ流している。
アクセサリーはなく着飾っているわけでないのに、シンプルな洋服が彼をより魅力的にさせていた。
こういう人を、自分を知っているというのだろうか。

(かっこいい…な)

立ったところを見ていないのでわからないが、身長も高そうだ。背筋が伸び、モテるんだろうなと漠然と感じてしまう。

透季が笑みを深めると、女の子が見惚れたように息を呑んだ。

「でも参加するなら楽しんじゃおうと思ってるので、よろしく」

真理奈の予想外は透季だった。
連れの松原は好青年といった真面目な空気があるのに、透季はその存在だけで人を惹き付ける。
かっこいいだけじゃない、大人っぽく包容力がありそうなのだ。すべてを委ねてしまいたくなるような、危険な香りだ。

ふと机の角で真理奈と斜めの席にいる透季と瞳が合ってしまう。

(こっち見たっ…)

胸が苦しくなり、真理奈は慌てて手元を見る。
見過ぎて怒らせてしまったのか。悪気はなかったんです、と言い訳までしそうになったとき、彼から低く囁かれた。

「次、きみの番だけど、自己紹介できる?」
「………へ?」

顔を上げるとグループの中心を指で示された。素直に視線を向けると、全員が真理奈を注視している。

「あ、あのっ…!俺…!いや、ぼく…!?」

自分の勘違いが恨めしい。
恥ずかしさのあまりとっさに声を上げたが、こういう場所では一人称を改めたほうが良いのだったか。

透季はどうしてただろう。思い出せない。
ますます真理奈は焦り、動かない口の代わりに両手を振ってしまう。

すると助け船を出すように先程と同じく低い声がした。

「俺でいいんじゃないかな?慌てなくて大丈夫だよ」

透季は落ち着かせるような、優しい眼差しをしていた。
心臓がうるさい。しかし透季に背中を支えられているようで、真理奈は安心感に包まれた。

「野上真理奈、高三です!よろしくお願いします!」

そう言って頭を下げたが、思わずフルネームを名乗っていたことに気付いて急いで周囲を見渡す。ほかの参加者だけでなく、女みたいな名前に透季まで驚いた表情をしていて、地中に埋まりたくなった。

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