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短編
01
SIDE:透季

大学の構内は広い。講習を受ける建物だけでなく、学課ごとに分かれ研究を行う棟もあるためだ。

(次の作業は九時間後か)

研究室の壁に備え付けの時計を確認し、透季は脱力する。
細胞を使って肺癌の研究をしているが、実験の行程がいちいち長いのがいただけない。
今は昼だから、次は深夜の零時近い時刻に大学へ来て、実験の作業をする必要があるのだ。

(学食行って飯食うか、いっそのこと帰るか…)

四年生でろくに講習のコマを入れていない。大学の近くにワンルームを借りて一人暮らしをしているため、帰ったとしても行き来がラクだ。

(帰るか)

透季が帰り支度をしていると、研究室の扉が開いた。

「透季!お前、この間の子と別れたんだって!?」

同じ研究室に所属する松原であった。愛嬌があって人付き合いのうまい彼が、不満気に口を尖らせている。

「……て、このまえの合コンで知り合った子?」
「そうだよ!お前ら意気投合して、すぐ付き合い始めたじゃん。なんで別れちゃうの?」
「 …飽きた」
「はッ!?」

前のめりになって驚かれ、透季は鬱陶しさを覚えて内心で苛立った。

「最初は可愛いし良いなって思ったんだよ。でも二週間経ったくらいで連絡すんのも会うのも面倒になってきて」
「先月やった合コンでも、お前そんなだったじゃん!勘弁してよー」
「なんでだよ?」

松原が頭を抱える理由がわからず、透季は眉間にしわを寄せる。

「そんなことばっかされたら、合コン主催してる俺の立場ないじゃん!透季の悪評だって立つぞ?」
「言いたい奴には言わせとけばいいんだよ。だいたい女のほうだって知り合って数日で付き合いオーケーしてんだから、ろくな女じゃないんだよ」
「もー…、顔は良いのに、どうしてそうなのかなあ」

責めていたかと思えば、今度は嘆く。忙しない男だな、と息を吐き、透季はさっさとカバンを手に立ち上がった。

「あれ、どこ行くの?」
「帰る」
「え、ちょっと待って!用事はまだあるんだって!」

松原は荷物を手近な机に置き、手提げカバンから一枚の紙を取り出す。

「じつは今度地域振興会のイベントで、学生が集まって地域の活性化事業を提案するディスカッションをやるんだけど、透季も来ない?」
「お前…本当になんでもやるのな」

なかば呆れて言うと、松原は胸を張って頷いた。

「当たり前でしょ。学生のうちに経験は積んで置かないと。社会に出たら自由がきかなくなるんだから!」
「…合コンだけやってりゃいいんじゃない?」
「そんな弛い大学生にはなりたくない!それで、出てくれるの?」

透季は形ばかりの思案をした。
退屈な日々を紛らわせられるのなら、なんだっていいのだ。

「出るよ。有力な意見は出せないだろうけど」
「やったー!」

拳を振り上げる松原に、透季は愛想のいい笑みを浮かべた。

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