マイ☆レジスタンス
04
タクトの首にある代物は、エイドから与えられたものだ。
中央に二.五カラットの血のようなルビーがはまり、その周辺に小粒のダイヤモンドが散りばめられている。売れば三桁は下らない。
首輪は従者が必ず着けるもので、エリートの家柄の良さを誇示し、従者への寵愛度を示す尺度になる。
タクトのように宝石で装飾された首輪は極めて希少であった。
(俺は有能だからねえ)
しかし首輪の役割はもう一つある。
魔力のない人間は知らない話だが、従者は首輪を介して主人から魔力を供給され、自由に力を使うことができる。従者の生命線なのだ。
小細工をされては堪らないので、それを口外する従者はいないであろうが。
「あんたが主人から可愛がられてるのはよくわかる。あんたがすることなら、主人も多目に見てくれるんじゃねえの?」
「へえ…、人は選んでるんだねえ。っていうかさあ…」
タクトはそう言うと、反撃とばかりに目差しを細めた。
「きみ…、"加巳"って、あの大手製薬会社の加巳製薬の息子なの?」
そうある苗字ではない。そう思い気に掛かっていたのだが、それは正しかったようだ。
加巳ははっきりと頷いた。
加巳製薬といえば、日本で三指に入るほどの製薬会社で、総資産は数兆円とも言われている。
エリートの家系に及ばないものの、庶民より良い暮らしができる男が、なぜ学則を撤廃しようと動くのか。
隠すことでもないのか、加巳は肩をすくめ素直に口を開いた。
「俺は加巳家に養子に入っただけで、もとはホームレスすれすれの生活だ」
「…だからエリートを恨んでるって?」
「将来はエリートに目にもの見せてやろうと思っちゃいるけど、それは今じゃない。あの学則が危険だからだよ。いつか絶対死人が出る」
加巳の言葉は重い。
これまで怪我人は続出しても、死人までは出なかった。しかし今後もそうとは限らない。
日室のようなエリートもいる。
(真っ直ぐな奴…)
そんな誰もがわかっていて、だが知らないふりをしてきた事に、加巳はこだわっているのか。
自身の危険もかえりみず。
タクトの胸に、幼い頃になくしたはずの想いが蘇った。
理不尽な世の中に、抗う術もなく従うしかないのだと覚ったときの悲しみ。果てが見えない、痛み。
(駄目だ…)
この感情を、思い出してはいけない。
そのとき甲高い声がタクトの意識を引き戻した。
「いつまでまだるっこしいことやってるの!さっさと従わせちゃえばいいじゃん!」
加巳の近くにいた、身体の線が細い少年だった。タクトよりわずかに背が低い。加巳と並ぶと、彼の顎程度しかなかった。
「待ってろ、茜。今説得中なんだから」
「七央は優し過ぎるんだよ!あんな奴、監禁でも脅すでもして、言うこと聞かせれば良いのに!」
「そりゃ学則以前に犯罪だ…」
加巳は言い聞かせるようにこぼし、少年の頭を撫でる。
激しいことを言われ辟易しているようだが、その手付きは優しかった。
(従者(オレ)に良い感情を持ってない奴も仲間にいるわけね)
これが普通の反応なのだ。加巳の態度が常軌を逸しているだけで。
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