マイ☆レジスタンス
01
魔力を備えた人類は、ある日突然変異により誕生した。
限られた家系で魔力は代々受け継がれ、それまで日本にあったどの財閥よりも彼らは大きく発展し、莫大な資産を築いた。
魔力を持たない人間はそれだけで虐げられ、彼らをエリートと揶揄して沈殿する妬みと悔しさを紛らわせた。
エリートは特別だ。家系ごとに魔力が異なり、炎、氷、風などその力は様々ある。
既存の人類と一線を画しているという意識から、従者を持ち世話をさせるのが特徴だ。
従者の特権は、主人であるエリートから魔力を与えられ、主人と同じ力が使えるようになることだろう。
だが魔力を持たない人間からは、エリートなんぞに媚びへつらう裏切り者と罵られていた。
そんなご時世の山奥に、十六歳から二十歳までが在籍する全寮制の男子学園、ヴァルパッチュ学園があった。
「うわああぁあ!!」
床に食器が散らばり、派手な音が立った。
男子生徒の叫び声に続いて、空気を切るような鋭い音が鳴る。
主人であるエイドと共に食堂へ来ていたタクトは、その不穏な気配に顔を向けた。
(あれは日室様と…従者のナリか)
食膳の回収口のまえで、倒れている生徒に何度も鞭(ムチ)が振るわれていた。ただの鞭じゃない。魔力によって作られた木の蔓(ツル)だ。
「見苦しいな…」
うっすらと眉をひそめ、漏らされた主人の言葉をタクトは聞き逃さなかった。
「俺が止めて来ようか、ご主人様?」
状況を面白がるように唇を上げ、タクトは琥珀色の瞳を細める。頬にかかっている長めの髪は、瞳と合うよう金色に染めていた。
「必要ない。あんなものに関わっては、我が城条家の品格が落ちる」
「さっすが俺のご主人様、言うことが違うねえ」
主人である城条エイドは黒髪黒瞳の怜悧な顔立ちをした美人だ。タクトよりわずかに背が高いが、白い肌に整った顔立ちは綺麗という形容がしっくりくる。魔力を使うと能力に合わせて瞳が赤く変貌する様もまた美しい。
騒ぎの場所では従者の手によって緑色に発光した鞭が床に転がる生徒へ何度も振り下ろされていた。
生徒は見る間に流血し、くぐもった悲鳴を上げる。背を丸め、頭を両腕でかばい、理不尽な暴力に堪えているのだ。
(ありゃ、あのままいくと死ぬな…)
従者は主人たるエリートの命令を遂行しているのだ。白に近い金髪を持った、目付きの悪い、タクトと同じ年の日室という少年。
彼は下卑た笑いを浮かべ、暴力を楽しんでいる。
「タクト、行くぞ」
「はーいはい」
主人のエイドに促され、タクトも一旦は後に続く。しかし激しい怒鳴り声が聞こえ、タクトは足を止めてしまった。
「てめえ!なにしてやがる!」
騒ぎに飛び込んできた男はナリを殴り、流血している生徒を抱え起こした。
どよめきが走った。エリートに逆らうなど正気の沙汰じゃない。
(誰だ…あの男…)
背が高く、肩幅が広い。遠目からでも男らしく整った顔が鋭い眼光を放っているのが見て取れた。
(へえ…けっこうタイプ)
タクトが邪な考えをしていると、厳しい声が掛かった。
「タクト、何してる」
そこに微かな苛立ちが含まれているのを読み、タクトは芝居がかった態度で殊勝に頭を下げた。
「申し訳ありません、ご主人様」
タクトは口元で笑い、軽い足取りでエイドと共に人混みに紛れた。
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