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アンダーグラウンド
07
「松波慶多(まつばけいた)。先輩の一つ下ですよ。って言っても、先輩は知らないでしょうけど」

たしかにその名前に覚えはない。かといって、邑史が知ってる名前など不良チームの仲間くらいのものである。
知らないからといって、どうということもなかった。

「松波…ね。で?俺になんの用だ?松波」

体を引けば"逃げ"ととられる。
邑史は真っ向から松波と対峙し、挑発するように小首を軽くかしげた。

「…見かけによらない人ですね。調子が狂う」
「高校生にもなって、人を外見で判断するなよ。みっともないぜ」

松波は眉を寄せ、なにか言いたげに邑史を見る。だれもがかっこいいと口をそろえるだろう、その顔立ちが歪むさまは息をのむほど綺麗だったが、邑史が惑わされることはなかった。
質問の答えを促すように視線を送る。

松波の体が揺れるが、その場からは動かなかった。

「…毎日帰りが夜中だと、そのうち罰則受けますよ」
「…それをわざわざ忠告にきたのか?」
「ええ。わざわざ、親切にね」

松波はあえて邑史の言葉をまね、恩着せがましく言ってくる。そんな彼を、邑史は真偽を見定めるようにじっと見つめた。
知人ですらない、共通点などどこにもない他人のために、忠告をしにくる人間がいるであろうか。
にわかには信じられない。

だがこれ以上つっこんだところで、松波が口をわるとは思えなかった。

(二年の…松波慶多か)

邑史はさらさらと触り心地のいい自身の髪をかきあげ、寮の建物へとつま先をかえた。

「そうか。それはわざわざ悪かったな。肝に命じとくよ」

これ以上話しても収穫はないと話を切りあげることにした邑史は、締めの言葉をなげ、松波のとなりをすり抜ける。

その瞬間、松波の手が邑史の腕をとらえた。
驚きとともに松波を振りかえると、間近から見下ろしてくる松波に視線を奪われる。

「夜中出歩いてると、だれかに襲われますよ」
「…たとえばお前に?」

邑史と松波の視線が絡みあう。
本心を読みとらせない。そんな松波の目が色を帯びたような気がした。
しかしそれはまた膜におおわれ、わからなくなってしまう。

松波の指から力が抜け、掴まれていた腕を解放される。その様子を目で追っていた邑史は、松波が離れるのをみはからい、今度こそ寮へと歩きだした。

背中に視線が突き刺さるが、振りかえるつもりはない。それどころか角を曲がって松波の視界から消えると、さっさと窓から寮内に入った。
人影がないのを確認し、携帯をとりだす。そうしてかけた先は巣鴨の番号だった。

『もしもし?』
「明日の集会、10時から8時に変更だ」
『8時ですか?』

突然の物言いにも巣鴨は動じることなく、邑史に返す。しかしその内容にはわずかに高い声が返ってきた。

「ああ。紅蓮の焔の対処策について話したい。幹部連中に周知しろ。おとりに松波慶多をつかう」
『松波慶多?だれっすか?』
「詳しいことは明日話す。じゃあな」
『…わかりました』

早々に会話を切りあげ、邑史は携帯をしまう。脳裏には先ほど会った松波慶多の顔が浮かんでいた。

「…賭けだな」

邑史は小さく呟くと、物音もたてずに寮の自室をめざした。

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