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アンダーグラウンド
06
結局、富永と巣鴨とわかれたのは日付が変わるころだった。
寮は当然のごとく門限を過ぎており、寝静まった建物は夜の闇の中で不気味にそびえ立っている。
今日は月も出ていない。

邑史は敷地を取り巻く外壁をのぼり、短い草でおおわれた地面へと着地する。門限破りは日常茶飯事である邑史にしてみれば、じつに手慣れたものだった。

寮の一階角にある窓は、使いふるされカギがバカになっている。その窓枠を上下に揺すり、カギをはずして寮内へ入るのがいつものルートであった。
今日もその道から行こうと立ち上がろうとしたのだが、近くから聞こえた草を踏む音に邑史の動きはとまった。

「とっくに門限過ぎてますよ、先輩」

突然かけられた知らない声に、芯が通ったように一瞬体が動かなくなる。
顔をあげていないため姿は見えないものの、頭のほうではたしかに人の気配がある。

(だれだ…?)

邑史は頭を急速に回転させた。
校内でまともな人付き合いをしていないため、声をかけてくる相手に心当たりはない。
教師と繋がりがあるのだろうか。風紀委員による見回りが昼間だけなのは確認済みだ。

少し出歩いていただけだと誤魔化すか、しらを切るか。ケンカに持ちこむという方法もあったが、総長を務める邑史の腕は西地区一だ。暴力を奮って黙らせるやり方はできるだけしたくない。
で、あれば―。

「お前こそ出歩いてて大丈夫なのか?規則違反だぜ」

立ち上がって相手と向き直り、邑史は不敵な笑みを浮かべてみせた。
そうして確認した男は、目を見張るほどかっこいい男であった。
明るい茶色に染め上げた髪に、モデルなさがらの高い身長に長い手足。横分けにし、ワックスでかためた前髪から覗く目はすっきりとした二重で、いかにも女受けしそうな顔立ちだ。
"先輩"と呼んできたことから、彼は後輩にあたるのだろうか。
こんな相手と一度でも会っていれば記憶に残っていそうなものだが、邑史の海馬にその痕跡はない。
これが不良かぶれならカモとして標的にされたと思ったところだが、彼はそんなことをしそうになかった。

口元には笑みを浮かべながらも、邑史の眼差しには自然と険しさが増していく。

「…気が強いんですね。見かけによらず。不良チームの総長をしてるからですか?」
「――」

だがすぐにその口元も引き結ばれた。
総長をしていることを校内で知るものはいないはずなのに、なぜこの男は知っているんだ―?

「お前、だれだ?」
「質問に質問で答えるのは卑怯ですよ。俺がさきに聞いたのに」
「まだるっこしいのはなしだ。質問に答えな。お前…だれだよ」

邑史の視線と男の視線が絡み合う。しばし見つめあったあと、さきに口を開いたのは男のほうであった。

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あきゅろす。
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