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アンダーグラウンド
04
「紅蓮の焔っ!?」

邑史はたった今聞いたばかりの単語を復唱し、驚きの目を相手へ向ける。

「なんだそれ。新発売のゲームか?」
「違うっすよ!最近出てきた東のほうのチームですよ!」

邑史の斜めにあるソファーへ座り、小耳に挟んだ情報を報告していた幹部の富永は、心外だと慌てて否定してみせた。
チームの名前があまりに古くさかったため言ってしまったのだが、さすがに無神経すぎたようだ。富永は邑史の縄張りである地区を見回りし、その際に聞いたとっておきの情報を提供してくれたのだから。

「で、その紅蓮の焔が俺らの領土を奪おうとしてるって?」
「そうっすよ!もっと言えば、邑史さんを狙ってるんです!」
「あ"?」

領土を奪うことと自分を狙うこと、それらが結びつかず眉をひそめたのだが、富永はそれをべつの意味で取ったようだ。慌てて邑史のまえで両手を振る。

「べつに邑史さんを色恋の意味で狙ってるわけじゃないですよ!」
「…そんなこと、だれも思っちゃいねえよ」

柔らかな茶髪に綺麗な二重瞼。さらに細い顎と薄い唇は女性そのものであり、男性の平均以上ある身長も、邑史を逞しくは見せてくれない。邑史が同性愛者から狙われることが多いのは周知の事実だ。
しかし邑史はそれを受け入れているわけではなく、むしろ迷惑に感じている。邑史が同性愛者であるならともかく、男などケンカ相手くらいの認識しかないため、歓迎できるはずもなかった。

邑史の機嫌を損ねたかと冷や汗を流す富永を救うように、そこへべつの幹部がやってきた。

「お前は本当不器用だなあ、富永。邑史さんがそんなことで怒るわけねえだろ」
「巣鴨…!」
「なんだ巣鴨、お前も来てたのか」

筋肉が存在を主張する腕を半袖からむき出しにし、男臭く長身の巣鴨が富永の座るソファーへと乱暴に腰をおろす。

富永がさきほどから忙しないのに対し、巣鴨はどっしりと構え、口元には笑みさえ浮かんでいる。ケンカの腕がたち、なおかつ要領も良い巣鴨を、邑史はチームの守護者のように思っていた。

「邑史さんの顔でも拝もうかと思って」
「週に二、三回は見てんだろ」
「それでも、やっぱり見たくなるんすよ。俺の居場所はここだって確認できて」

邑史と幹部達は近くに住んでいるわけでも、学校が同じわけでもない。
夜、偶然顔を出した店で邑史が見つけ、声をかけたのが始まりだ。ほかのチームメンバーは、邑史のケンカ姿を目にし、それに憧れて入ったものが多い。

夜に集い、話す仲間。
昼間の彼らに興味はないが、巣鴨は二十代後半に見えて、じつは邑史と同じ高校生なのがおもしろい。
あまりに想像ができず、巣鴨の学ラン姿を見に彼の高校に押しかけたので間違いはない。あのときは盛大に笑ったものだ。

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