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純粋なあなたを



「ランスさん」

ふわり、とまだ寝ぼけた頭に心地よく響く声。その声で目を覚まし、あたりを見回せばカーテンが開けられた窓からの光が眩しい。知らないうちに寝てしまったのか。

「おはよう、ぐっすり寝てましたね。」
「…おはようございます。起こしてくれても良かったんじゃないですか?」
「やです。だって寝顔が可愛くって、」

ずっと見てたかったの、と目を細めて彼女はコーヒーの入ったカップを渡す。そういう彼女も寝ぐせはついたまま、目をこすっているところを見ると起きたばかりなんだろう。熱いコーヒーが喉を通る感覚で脳を起こす。

「そういうなまえこそ、寝顔が可愛かったですよ。口が開いてよだれが垂れてました。」
「えー!?ひどい!全然可愛いところじゃないですよ、それ。」
「冗談です。可愛かったのは本当ですが。」
「それもどうせ嘘なんでしょう?分かってますよ、ランスさんの性格は。」

からかうように言ってやれば顔を背けて唇を尖らせる。本当に、本当のことなんですけどね。寝言で私の名前を呼ぶ貴女といったらそれはそれは愛しくて。やわらかな髪を撫でると、なんだかこちらがくすぐったいような気持ちになるのです。世間が愛だの恋だの、馬鹿みたいに主張する理由が少し分かるような気もした。物事を成し遂げるうえで邪魔でしかない情など、とっくに捨てたつもりでいたのに。貴女といる時だけはなぜか“幸せ”という言葉が浮かんでしまう。そんな言葉は似合わない、似合ってはいけないと止める声が心の隅で聞こえる。

「まぁ、貴女が好きなように納得してくれればいいです。真実は変わりませんから。」
「う…。やっぱりそういうこと言うんですね。」
「ええ。期待通りの発言をしてあげたまでですよ。」
「じゃあ、ランスさん。私が今考えてること分かりますか?期待通りの発言、もう一回してください!」
「却下です。」

きっとどこかへ行きたいとか、何か食べたいとかそんなものだろうと考える。分かってしまう自分がなんとなく悲しいが、すこし誇らしい気もする。

「そんな…もういいです自分で言います。一緒に出かけましょう!行きたいところありますか?」
「特にありません。このまま部屋から出たくないですね。今は貴女と二人で居たいですから。」
「へ?今なんて…」
「なまえ、」

だらしなく驚いた顔を引きよせ、頬に軽く口付ける。紛れなく幸せな時を歩むその存在は、憧れであるといってもいいのかもしれない。一緒に過ごせるこの時間を大切にしたいと思う。この想いが揺らぐことはない、けれどそれと同時に自分の野望や夢も揺らぐことはない。

「好きですよなまえ。ずっと、何があっても。これだけは絶対に変わりませんから。」
「き、急にどうしちゃったんですか。何かあったんですか?」
「いえ、何も。ただ伝えたかっただけです。理解してくれましたか?」
「勿論ですよ。私もランスさんのこと大好きです。ずっとずっと、すっごく。」



微かに赤く染まった顔で頬に口付けを返される。その後に残る小さな熱を、聞く度に落ち着く声色を、一緒に過ごした一秒一秒を、忘れないようにと全身に刻んだ。
























(私が世間から見た悪なんだと知っても、貴女はまだ好きだと言ってくれるでしょうか。)



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