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形の無いものの1

 ばさり、と。
 浴衣を脱いで、普段の着物を羽織るまでの僅かな時間、その身体に目が吸い寄せられて瞬きも出来なかった。





 ことに、俺は激しく落ち込んだ。
 空はもう既にさっさと着替え終わっている。俺が、空に目を奪われた後、その事実に気付いて沈没している間に。
 以前から幾度、同室で一夜を過ごしただろう。目を奪われてしまったその理由に気付いてからも、だ。
 だが一度たりとも、こんな事態は無かった。何故、今更。
 と、悔やんだところで事実は消せない上に、例え寝不足で理性の箍が緩んでいたせいだとしても一度意識した以上これからも、恐らくは。
「……空、俺の前で着替えないでくれ……」
「はァ?」
 頭を抱えて苦悩する俺に、空は訊き返す。当然だ。突然すぎる要求なのだから。
 そうとは分かっていても、どうにも耐えられそうになかった。
 空が俯いた俺の表情を伺うように近づく。が、覗き込むことは無い。覗きこまれたところで青い顔か苦渋に満ちた顔しか見えないだろうが。
 赤くなったのなんてほんの一瞬だ。あとは自分のことながら異常に血の気が引いて見えると思われた。
 空はんー、としばしの間唸り声を上げたかと思うと、ばっさり言い切った。
「意味が分からん」
 さっぱりや、とまで言った。
 理不尽な、理由の分からない事柄に折れるような奴じゃないのはよく分かっている。
 だが。
 理由を伝える訳には絶対にいかない。
 知られる訳には行かないんだ。
「……頼む、から」
 俯いたまま、空に頼み込む。
 視線を合わせられないのは、落ち込んでいるからでもある。
 もうひとつは。今、合わせて、しまえば。



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