三毛と嫉妬 2
ある日、クラスの女子数名からチョコレートを渡されて、バレンタインデーの存在を思い出した。
さらには学校の帰り道でも他校の女生徒に待ち伏せされた。
その子はバイトに明け暮れていた頃の俺に一目惚れして、それから執念で探し当てたのだそうだ。
なんだ。俺って実は結構モテたんだな。
チョコレートの入った可愛らしい紙袋を下げながら上機嫌で自宅へと戻る。
家が近づくにつれ、今にも雨が降りそうな空模様になってきた。
気のせいかと思っていたが……どうやら、この空模様の原因は我が家にあるようだった。
家の中から漂う猛烈な負のオーラに圧倒される。
「……た、ただいま……?」
おそるおそるドアを開けるが返事はない。母親はまだパートに出ている時間だ。
負のオーラの発信源であろう居間に向かうと、大根や白菜の入った買い物かごの横にペタリと座り込んでいるミケがいた。
いつもならば俺が帰ると、犬やら猫やら鳥やらに囲まれながら満面の笑顔でじゃれついて来るというのに。
ペットたちは部屋の隅でプルプルと震えている。
これは一体。
「おい……どうした?」
声を掛けると、恨みがましい目でこちらを見られた。普段は紫色をしているはずの瞳が、何やら赤みを帯びて光っている。
コイツが人外であることを久しぶりに思い出した俺だった。
「み、ミケ……?」
「……中山さんが……」
「ん?」
「ダーリンの浮気現場を八百屋の中山さんが見たって……」
「は?」
浮気現場?
……ああ、確かに学校帰りに告られたのは商店街だったけれど。何チクってんだ、中山さん!
「すぐに戻ってくると思ってたのに、ダーリンいつもより帰りが遅いし……」
ミケは俺が持っていたチョコレートの袋を見た途端に、ぶわっと泣き出した。
「わああん、ダーリンの浮気者ー!」
ミケは泣きながら買い物かごから野菜を取り出し、次々と投げつけてきた。
「ちょっ、待て!」
根菜は痛い!
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