三毛と聖夜 4
料理をあらかた貪り尽くし、ミケの手作りのケーキも食べ終えたところで、社長が「小粋なバーを見つけたんですが、二人で出かけませんか?」と俺の母親を誘った。
「片付けならやっときますから」
と、ミケも援護射撃をする。
「あら、そぉ?」
ほんのりと頬を染めた母親が、「じゃあ、ちょっと着替えてきます」と居間を出ていった。
「はああ、緊張してきた」
「社長、平常心ですよ! 平常心!」
「わかってる。今夜は帰らんぞ」
社長は鼻息荒くガッツポーズを決めた。頼むからそういう話は息子の前ではやめろ。生々しい。
……まぁ、母親も以前社長からプレゼントされた高そうなワンピースを身に着けて出かけたし、嬉しそうだったからな。
天国の親父。もういいよな。母さんが幸せになっても。
相手がちょっとアレだけどさ。悪いヤツじゃないから。
……魔王だけど。
「さて、こっちはお開きにするか」
母親たちを見送った後、俺はパンッと手を叩く。
「何を言っている。私は朝まで飲み明かすつもりだが」
チビオの言葉にミケが批難の声を上げる。
「今日はクリスマスイブですよ? 恋人たちがイチャコラする日ですよ? 察してくださいよ」
「だ・か・ら、に決まってるだろう。私の目の届く場所で、社長ご子息となられる方とイイ雰囲気にさせてたまるか」
「酷い!」
ミケがさめざめと泣いた。
「チビオ、俺のこと嫌いだったよな?」
「もちろんだ。私は次期社長の座を虎視眈々と狙っているだけだ」
わー、欲望に忠実。
俺がちょっと感心していると、チビオの首に後ろから腕を回したヤツがいた。
天使だ。
「おチビちゃん。愛し合う二人の邪魔はいただけないネ。日本式の聖なる夜なんだし」
「……離せ、天使め」
「あれれー? キミ、ずーいぶん魔力が少ないネ。これはチャンスかも?」
――チャンス?
一同、顔を見合わせる。キラキラと光る笑みを湛えながら、天使は言った。
「僕、悪魔を一度食ってみたかったんだよネ」
うふふ、と笑う声に、場が凍りついた。
「ミケはこう見えて結構魔力高いから、力づくじゃどうにもならなくてさー。というわけで、あとはお二人さん、水入らずでお幸せにネ♪」
「ギャアアア!!」
天使はチビオを小脇にかかえて表に出ると、バサッと羽を広げて飛んでいった。
見送る俺たちの前に、ほのかに光る羽がふわふわと舞い落ちる。
「天使って、悪魔食うの?」
「食欲の方ではない、と思う」
「やっぱり?」
達者でな、チビオ……。
憎たらしいヤツだったが、今はちょっと同情する。
そう思いながら天を仰いでいると、羽のかわりに今度はチラホラと雪が降ってきた。
はあ、と白い息を吐くと、ミケが俺の顔を覗きこんだ。
「メリークリスマス」
ミケに、ふっ、と笑顔を返す。
ここからは、恋人たちの時間。
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