三毛と契約 2
扉の向こうから、「あけてくださいぃぃ」と扉をカリカリ引っ掻く音が聞こえる。
俺は、母親に呆れた目を向けた。
「得体の知れない人間を家に上げんじゃねぇよ」
「上げてないもん」
「嘘をつくな。じゃあ、アイツは何だ」
「あのね、お買い物の帰りに通りがかったゴミ捨て場に、ダンボール箱が置いてあってね……」
母親の話を要約するとこうだ。
ダンボールの中には、やせ細った猫がぐったりと横たわっていた。
気の毒に思った母親は猫を抱えて家に連れ帰り、猫缶を食べさせてやったのだと言う。
鼻をひくつかせて目を覚ました猫。
ガツガツ、ペロリと猫缶を平らげたと思ったら、ボフンという煙と共に……
「ははは、世話になったな。お礼にひとつ、願いを叶えてやろう!」
と高笑いしながら、あの男が現れたのだと言う。
確かに『得体の知れない“人間”』じゃねぇな。
「“人間”かどうかはともかく、得体の知れないものを家に上げるな!」
俺が怒鳴りつけると、母親はしょんぼりしながら、「だってぇ」と口を尖らせた。
「ところで、アイツは何か怖ろしいことを口走っていたが、まさか願ったのか」
「うん! 福ちゃんに恋人が出来ますようにって」
「余計なお世話だ」
「だって、お父さんが死んでから、福ちゃん頑張りすぎなんだもん。中学校卒業してから働きづめで……。本当ならまだ高校生なのに。お母さん、福ちゃんにも幸せになって欲しいんだもん」
「その気持ちだけは受け取っておくが、いくらなんでもアレはいらん」
「ミケちゃん、良い子なのに……」
「善意かどうかわからんだろ! つか、男だろ! つか、人間じゃないだろ!」
[*prev][next#]
[戻る]
無料HPエムペ!