三毛と上司 5
つまり、それは、ミケは死んでいないということ。
ホッとするあまりに力の抜けた俺の頭を、七三男がガツッと地面に押さえつけた。
「水を差すようで申し訳ありませんが、再生には時間がかかりますから助けは期待できませんよ」
そう言って、酷薄に笑う。
「大変不本意ですが、これから花押の上書きをさせていただきます。花押を与えられたものはそう簡単に死にませんが、所有者の飽きた時に餌となる運命です」
七三男は瞳を赤く光らせ、舌なめずりをした。
「私はグルメですから、頂く以上は素敵なテイストに致します。私はね、人の苦痛、絶望、恐怖が大好物なのですよ」
そう言って、七三男はミケの残した痕を舐め上げた。
「っ、ヤ、メロ……」
ぞわっと立つ鳥肌に身をよじらせると、七三男の表情が愉悦に歪んだ。
「なかなか楽しめそうですね」
再び顔を寄せてくる七三男が視界に入り、俺はギュッと目を閉じた……。
――ドゴォッ!
俺の上を通り過ぎる突風を感じた。
おそるおそる目を開けると、俺の上には上半身が吹き飛んだ七三男が跨っていた。
「う、うわー!!!」
パニックに陥っていると、その残骸が蹴り飛ばされて俺の上から消えた。
ギギッ、と蹴りをかました人物を見やる。
「み……ミケ?」
ぜーぜーと肩で息をしているのは、何だか髪の毛も耳もいつもより長いし、ねじれた角が頭に二本ばかり生えているけれど、多分ミケだ。
「だ、ダーリン! ごめんねっ、怖い思いさせちゃって……」
慌てふためくミケに、俺は飛びついた。
さっき吹き飛ばされたはずの顔を撫でる。
「泣かないで、ダーリン。もう大丈夫だから。ね?」
ミケが俺の目尻をぺろぺろと舐めるので、俺はその顔を引き寄せてキスをした。
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