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三毛と上司 2
「この度は、ご契約内容変更のお願いに参りました」

 七三男の切り出した話に、俺は少し首を捻った。

 母親がミケと取り交わした契約内容は、「息子の恋人と一緒に仲良く幸せに暮らす」だ。何ともまぁ、曖昧。

「うちの無能な部下が長い間ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません。当方の監督不行き届き、心よりお詫び申し上げます」

 貼り付いたような笑顔に感情のこもらない声で謝罪を述べられた。

「部下はご契約者様のご子息様が進学できるように取り計らったとか。当方は報酬に見合う充分な成果と考えております。できれば穏便に、それでよしとして頂けませんでしょうか」

「つまり、途中で解約しろと」

「迅速なるご理解、恐縮にございます」

 七三男の目の奥には侮蔑の色があった。慇懃無礼というやつだ。

「契約書によると、解約にはコイツの真名か、契約者の命が必要とあったけど」

 俺がソファの背にもたれながらそう訊ねると、七三男は少しだけ驚いたような表情を浮かべた。

 馬鹿な人間が契約書を隅々まで読むわけがないとでも思っていたのかもしれない。

「もちろんこちらの手落ちでございますから、部下の真名によって解約の手続きをさせて頂きます」

「や! ややややでひゅ!」

 七三男の発言に立ち上がって口を挟んだのは……

 ミケだ。噛みすぎだ。

 スッ、と凍りついた七三男の表情に、ミケの顔は蒼白になった。

 ごくり、と喉を鳴らし、意を決したように口を開く。



「わわ、私たちは、あああ愛し合っているのです!」



 ……しーん……



「ご解約の件、ご了承頂けますか」

「母親の命に別状がないなら構わない」

「ダーリンひどいっ!」

 いやもう、お前の上司の前で殴らずに我慢した俺を、俺は褒めてやりたいよ。

 七三男の完璧な笑顔も引きつって、眉毛がぴくぴくしているぞ。

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あきゅろす。
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