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三毛と上司 1
 天国の親父……。

 俺は今、親父のいる天国にちょっぴり近づいています。



 学校から帰ると、居間のソファに銀縁眼鏡をかけた黒髪黒スーツの男が座っていた。

 七三に分けた長めの前髪の一房だけが金色だ。

 その向かいには、ピンストライプのスーツの上からフリルのついたエプロンをしたミケが、青ざめた顔でうつむきながら座っていた。

「……誰」

 俺がぼそりと呟くと、トレイに紅茶を乗せてキッチンから戻ってきた母親が、「ミケちゃんの上司の方ですって」とニコニコ顔でのたまった。

 上司……。

 七三男が細い目を三日月のようにして笑った。



 悪魔の上司なら、やはり悪魔なのだろう。



「やぁ、これは素晴らしいマスカテルフレーバーだ。ふむ、ダージリンのセカンドフラッシュ……」

「うちには安物のティーバッグしかねぇけどな」

 俺はうんちくを語ろうとした七三男をザックリ切り捨て、制服姿のままミケの隣に座った。

 うちにある食材はミケがちょいちょい何かやらかしているようなので、安物でもやたら美味いのは確かなのだが、単なる前口上をぐだぐだ語らせるのはウザイ。

 一見ホストのようにチャラいミケとは違い、七三男は執事のような風体をしている。

 ミケより年上なのは間違いないだろうが、悪魔はみな綺麗な顔をしているものなのか、年齢がわかりづらい。

 というか、悪魔って普通に歳を取るのか?

 発言を途中で遮られて口を閉ざした七三男は、眉を不機嫌そうに顰めて眼鏡のブリッジを指で押し上げたが、すぐに笑顔に戻った。

「部下がお世話になっております。仕事上の都合により名は明かせませんが、お好きに呼んで下さって構いません」

 七三男に視線を向けられたミケは、さっきよりも酷い顔色で汗びっしょりになっていた。


 しかし、さっきから気になっているのだが……。

 ミケ、そのフリルのエプロンは何のつもりだ。

 誰も何にも言わないから、ツッコミを入れづらい。

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