闇夜の国 10
僕は驚いた。
天国結社の人が、何故こんなところにいるのか分からなかったからだ。
彼はコホンとひとつ咳払いをして、語りはじめた。
「天国には普通、自殺した人は行けないんですよ」
「さっき聞いた」
「我々は、そんな哀れな魂も救おうと……」
「それもさっき聞いた」
彼はちょっと情けなさそうな顔をした。
僕は遠慮がちに目を伏せた。
「――本当は、誰にも迷惑なんかかけたくないんだ」
「と言いますと?」
「でも、僕はただ、ここにいるだけで迷惑なんだ。父さんや母さんや……みんなにも」
あんたのせいで――
あんたがいるせいで――
みんな、僕にそう言った。
「それなら、僕はいなくなった方がいい。少しの間、みんなに迷惑をかけちゃうのが気がかりだけど、多分、良いことの方が多いから大丈夫……すぐに忘れられるよ、ね」
そう言って、僕は微笑んだ。
「そんなふうに悲しいこと言いなさんな」
僕とは逆に、天国結社の人は表情を曇らせた。
「悲しくなんかない」
僕は少し首をすくめた。
「だって、星になるんだものね」
――闇に溶けることなく、輝く星。
そう、僕は星に憧れていた。
天国結社の彼はため息をつくと、クリップボードに挟んであった紙に目を通し、胸元のポケットに差してあったボールペンで、くるくると丸をつけた。
その途中で、ペンの走る音がピタリと止まる。
「生まれ変わっても巡り会いたい人っています?」
……生まれ変わっても?
僕は、彼をまじまじと見た。
[*prev][next#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!