・嫉妬編3 「屋上はダメだっつったろ。柄の悪いのがいっぱいいるから……って、ええ? ま、マジで泣いてんの? なんで?」 動揺する芹沢サンの声。 (お、太田先輩、泣いてるって!) (しっ、静かに!) さすがにこれ以上は近づけないので、俺と小山内先輩はそのひとつ前の角に隠れて、声だけで様子を伺ってます。ハラハラ。 「……すぐ落ち着くから、放っておいてはくれまいか」 「なんでだよ……。やっぱ瀬名のせいなのか? それなら後で殺しておくけど」 (おおお小山内先輩、俺、殺されちゃうよ!) (しっ、静かに!!) 「それは瀬名君が可哀想だからやめてくれたまえ。俺がおかしいのだ」 「おかしい?」 「キミに友達が増えると、俺は嬉しい……はずなのだが。小山内の言う通りだ。皆慈が瀬名君の名前を覚えていて、少しばかり……嫉妬した。すまない」 「…………」 「キミ、俺の名前はなかなか覚えられなかっただろう。最初に呼んだのは“キモオータ”で、その後もちゃんと呼んでもらえなかったからな」 「それは……俺が悪かったよ。最初に違う名前で覚えちまうと、なかなか正しい名前が入ってこねーんだよ……」 「わかっている。大概のことはわかっているのだが。……だから、少し放っておいてくれればすぐに……」 「太田尊志、だろ。さすがにもう覚えてるっつの」 「……っ! ……そ、そうか」 不意に沈黙が流れた。 俺と小山内先輩がそーっと顔を覗かせると、太田先輩は力無く壁にもたれかかり、芹沢サンは太田先輩の目元をそっとぬぐっていた。 薄暗い廊下に差し込む逆光で、二人の表情まではよくわからない……。 [*prev][next#] [戻る] |