違う過去 １４
「……庶子」
「親父としか血が繋がってねーの。……ありがちだろ？」
芹沢が「庶子」というあまり一般的ではない単語を元から知っていたとは思えない。きっと外部から、もしくは自分の親から何度も吹き込まれたのだろう。
「キミの実の母親は？」
「小学校の途中までは母子家庭だったんだけどな。どこぞの男と結婚するのに邪魔だからって、俺を親父に預けてトンズラ」
そう言って、芹沢は笑った。
「……何故笑う？ 違うだろ？」
「ん？」
「キミの家はどこだ」
「ア？ お前、どーしちゃったの？」
「キミのご両親をぶん殴ってくる」
行き先も決めぬままにズンズン歩き出す俺を芹沢が全力で引き止めた。
「ちょっ、お前、いきなり妙なキレ方すんな。こっちがビビるっつの」
「責任もとれない野郎が繁殖行為にいそしんでんじゃねぇよ！」
「す、すまん」
「……キミを責めたわけじゃない」
「そ、そうだよな。は、はは……いや、でもちょっと反省した」
困り顔の芹沢を見ていると、身体から力が抜けた。
「俺は普通に幸せすぎて、キミに何て言えばいいのかわからない」
「いいんだよ、そのままで。何にも変わってくれるな。きっとお前は変わらないと思ったからようやく言えた」
「…………」
「お前、言っただろ。例えどんな秘密があろうと、例え言葉が足らなくとも」
「……友達」
「俺な、漫画読むのが好きだとか、絵を描くのが好きだとか、誰にも言えなかった。お前にはいきなり恥ずかしいとこ見られたから、なし崩しっつーか」
「恥ずかしいとこ？」
「漫画コーナーうろついてる姿なんぞ、クラスのヤツに見られたくなかったんだよ！」
「……？ それって恥ずかしいのか？」
「俺は恥ずかしいの！」
「そ、そういうものだったのか……」
芹沢は顔を赤くしながら首筋をポリポリ掻いていた。
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