同じ趣味 6
「す、すげぇ……」
2階にある我が家の書斎を覗き見た芹沢は愕然としていた。
この家で最も広いその部屋には、大きな本棚が壁際にずらりと並んでいる。
俺と腐女子の姉貴はもちろん、実は俺の両親もかなりの漫画好きなのだ。
しかもみんな気に入った本を売ったり捨てたりが出来ない人間なので、数年前の改築の際に書斎という名の漫画部屋が作られた。
「ここは本屋か?」
「漫画に限って言えば、小さな本屋より揃っているかもしれないが。とりあえずキミ、荷物を置いたら先に……」
俺の説明もそこそこに芹沢が部屋に足を踏み入れようとしたので、俺はヤツの襟首をむんずと掴んだ。「グゲェ」と、ガマガエルを踏みつぶしたような声がした。
「何すんだテメェ!」
ギンッと睨みつけて来たが、俺もその瞬間、相手が不良であるということも忘れて睨み返していた。
「人の話は聞きたまえ! この部屋に入る前に手洗いうがいをするのだ。まずはそれからである!」
俺の勢いに押されたのか、芹沢は意表をつかれたように一歩後ずさった。
「ンだと? 俺は子供じゃねぇぞ……」
「手洗いうがいに大人も子供もあるか。風邪などの感染予防もあるが、手を洗うのは本に手の脂をつけないためだ。脂は汚れの原因となる。もちろん、お菓子や飲み物を持ち込むのも禁止だ。読みかけの本のページの端を折ったり、伏せて置いたり、表紙カバーを栞代わりに使うのも禁止させていただく。それだけは忘れないでくれたまえ」
「……」
「返事が聞こえないのだが」
「わ、わかった。気をつける」
「よし。では手を洗おう」
俺は芹沢を洗面所に連れていった。
ヤツは水洗いでササッと済ませようとしたので、「薬用ハンドソープを使って、ちゃんと指の股までしっかり洗いたまえ!」と窘める。
芹沢は「お前は俺の母ちゃんか!」とボヤきながらも、渋々それに従った。
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