違う過去 9
そして、改めて芹沢に向き直った。
「俺を助けたせいで絞られたのだろう。悪かった」
「……んなコト言うな。やりたくてやったんだ」
芹沢が消え入りそうな声でそう言った。その手には包帯が巻いてあった。
腕組みをした唐草先生がちらりと芹沢を見て、諭すように口を開いた。
「暴力で守れるものもあるが、失うものも多い。力を制する力を持て、芹沢」
「うっせーな……」
「もし相手にもっと酷い怪我を負わせていたらどうする。相手の人生だけではない、自分の人生、そして守ったはずのものまで失う羽目になる」
「うっせーつってんだろ!」
芹沢の怒声に、小山内と担任の身体がびくっと跳ね、母も色を失った。
俺は痛む身体を押して立ち上がり、芹沢の前で両腕を開いた。
「ほら、俺は本当に大丈夫だ。……俺の代わりに傷つくな。俺だってキミが傷つくとつらいんだ」
そう伝えると芹沢は表情を歪め、おずおずと俺に抱きついた。
「……死んだらどうしようかと思ったじゃねーか」
「勝手に殺さないで頂きたい」
「だよなぁ」
芹沢の目が潤んで、俺の肩口に顔を埋めた。
母はホッとして微笑んだが、担任と唐草先生は弱々しい芹沢に目を丸くしていた。
小山内に至っては手で顔を覆い、指の間から網膜に焼き付けるようにガン見している。やめてくれ、そのエロいものを見るようなポーズ。
俺は芹沢の背中をよしよしと撫でながら、小山内を睨んだ。
「唐草先生。今後、芹沢のことで困ったら太田に相談しましょうか」
「その方が素直かもしれんな」
先生たちの会話に芹沢がバッと俺を突き放すが、その拍子に身体に激痛が走った。
「あああっ、ワリィ……」
表情が歪んだ俺に慌てふためく芹沢を見ながら、小山内が「キュン死しそう」とのたまった。
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