違う過去 7
「……考えてみれば俺、飛鳥君が初めての友達だったんだ……」
「お前と友達だったコトなんかねぇ」
「そう……なんだろうな。でも、あの日……俺は……飛鳥君に誘ってもらって嬉しかった……」
俺のボソボソとした呟きに、飛鳥の顔が歪んだ。
「イミわかんねぇコト、言ってんなよ?!」
そう叫んで、飛鳥は俺の腹を思いっきり蹴った。ガクンと膝をついてうずくまると、今度は顔を蹴られた。
鼻血がほとばしった。
あの日、どうしていれば俺は飛鳥に気に入ってもらえたのだろうか。
俺は、人とうまくつき合えない自分が嫌いだ。知らぬ間に相手を傷つけてしまうから。
俺の中の飛鳥は、あの日、俺が泣かせてしまった小さな子供のままだった。
「オカマちゃんのくせに、ズボンなんか履いてんなよ?!」
飛鳥がそう言うと、飛鳥の仲間が俺のズボンを膝まで下ろした。一体何が楽しいのか、彼らはゲラゲラと大爆笑していた。
飛鳥は仲間と数人がかりで俺を踏みつけ、冷たいトイレの床の感覚すら遠のきかけた時。
ドアがバンッと開く音がして、一瞬店内の騒音が耳に入った。
「男子トイレ、ただいま使用不可ですぅ……ぐぶっ!!」
飛鳥の仲間の一人が口を開いた瞬間、ドカッと鈍い音と共に俺の目の前に倒れ込んだ。
うっすらと目を開くと、そこに立っていたのは芹沢だった。
ぼんやりとした視界に白い頭が目に入る。しかし、これまで感じたこともないほど恐ろしい空気を纏っていた。
「テメェ、誰だよ?!」
そう問われた芹沢だったが、無言で飛鳥の顔面に拳を捻り込んだ。
「飛鳥ッ?!」
一撃で沈んだ飛鳥にとまどう仲間たちも、次々と芹沢にのされていく。
「芹沢! もうやめておけ!」
倒れた飛鳥たちに追い打ちをかける芹沢を羽交い締めにして止めたのは、日本史の唐草先生だった。
その後ろから小山内が真っ青な顔をして飛び込んでくる。
「太田君! 太田君!!」
小山内の叫び声を聞くうちに、俺の意識はぷつりと途切れた。
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