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違う過去 5
「飛鳥君……」

 細いヘアバンドでライオンのように後ろに流したバサバサの茶髪は中学時代と変わらない。

「オカマちゃんごときが俺の貴重な時間を無駄遣いさせるとは、偉くなったもんだな?」

「……それは申し訳ない」

 完全に言いがかりといえる会話を横で聞いていた小山内はすくみ上がっていた。

 飛鳥にゲームを中断されたせいで、俺のキャラクターのライフはあっという間にCOMに削られてゲームオーバーとなった。

 こんな状況だというのに、俺は「ああ、もったいない……」と思いながら画面を見つめていた。


 この飛鳥は小学生の頃からしつこく俺に絡んできた男だ。

 最初は俺から漫画やゲームを借りては傷だらけにしたり、そのまま借りパクするようになった。

 5年生の辺りから俺を「オカマちゃん」と呼び始め、「オカマのくせにズボン履いてんじゃねーよ」とはやし立てた。

 中学に入る頃には飛鳥の身体も大きくなり、会う機会こそ減ったものの、いつしか暴力を伴う虐めへと変貌していった。

 一方の俺は、子供の頃から人間関係に対して妙に冷めており、中学卒業までの辛抱だと割り切っていた。それもまた飛鳥の気に障ったようだった。

 そのうち飛鳥は、俺を庇ってくれた彼女にも手をあげるようになったため、迷惑を掛けないために彼女と距離を置くようになった。結果的にそれが彼女との別れの決定打だったように思う。


「俺はもう帰るので、後は好きに遊んでくれたまえ」

「……まぁまぁ、そう急ぐなよ」

 席から立ち上がり、移動しようとした俺の肩を飛鳥は押さえつけた。

 俺は怯える小山内に視線をやり、あごで入り口の方を指した。小山内まで巻き込みたくはなかった。

「どこ見てんだよ。ちょいと便所で仲良く話でもしようや」

「…………」

 俺はため息をついて、飛鳥に従った。

 小山内は持ち前の空気モードを発動し、そっとゲームセンターから出て行った。

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