違う印象 13
俺を拘束している林はポケットからバタフライナイフを取り出し、俺の頬にピタピタと当てた。
「この顔に傷をつけたくなければ、芹沢、アンタがそこの早川を潰しな。そしたらコイツを解放してやる……」
なんてベタなことをする不良なのだ。俺が言うのもなんだが、漫画の読み過ぎだと思う。
芹沢は顔色を変えて唸っていたが、俺は恐怖を通り越して少し面白くなってしまっていた。
すると急に頭が冷静に回り始め、過去に読んだ護身術の指南書の内容を思い出す。
俺は深呼吸をすると、さっき散々早川に蹴られていた場所を肘で打った。
林が呻いて少し前屈みになったところに、身体を反らせて後頭部で頭突きを喰らわす。
次の瞬間には、鬼の形相をした芹沢が林をむんずと掴んでぶん投げていた。
倒れていた椅子にしこたま身体を打ち付けた林は、ひとつ呻くと動かなくなった。
「大丈夫かっ?! 痛いところはないか?!」
青ざめた芹沢は俺の身体を丹念に調べ、俺の腕にうっすらと血の滲む切り傷を見つけて顔をしかめた。
どうやら林のナイフが一瞬かすめていたらしい。ズキリと痛みが走った。
「キミの方が痛いだろ。さっきバットで殴られてたのを見たぞ」
「怪我のうちに入らねぇよ」
芹沢は拗ねたようにそんなことを言った。
「おい、芹沢」
早川に声をかけられた芹沢は、ハッとして俺を背に庇う。
「あー、今日はテメェとやるために来たんじゃねぇんだから、今さら何もしねーっての。余計な体力使わせんじゃねぇよ。ちょっと聞きたいコトがあるだけだ」
「何だよ」
「テメェ、《カブキ》のチームに入ってんのか?」
「入ってねぇよ」
「最近ナリを潜めてるらしいけど、どこで暴れてんだ」
「暴れてねぇ」
早川が俺の方を見たので、俺はこくこくと頷いた。
「ふん。……今日のところは、もういいから帰れ」
追い立てられるように、俺たちは裏口から放り出された。
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