違う印象 12
「……ふん、久野の女か林ンとこのスパイかと思ったが、お前の女かよ」
早川がそう言うと、芹沢は不愉快そうに顔を歪めた。
「ハァ? 頭くさってンのか?!」
「あんだとコルァ?!」
「せ、芹沢君、事態を複雑にするなっ!」
場違いすぎて息を潜めていた俺だったが、思わず口を挟んでしまった。
「うっせぇ……単純な話、立ってるヤツをみんなぶん殴ればいいだけだ」
あ、アホー!!!!
芹沢の脳の構造が単純すぎて眩暈がした。
捕まった俺が悪いんだけどさ……。俺を決して女扱いしない芹沢はイイヤツだけどさ……。
なし崩し的にまた大乱闘が始まる。
「……芹沢君を止めたいので、手を離してもらえまいか?」
「あ? ああ……」
俺を捕まえていた男にそう言うと、話の流れ的に問題ないと判断したそいつは手を離してくれた。
すぐさま、早川に掴みかかろうとしていた芹沢に駆け寄り、横から体当たりするようにして妨害する。
思わずよろけた芹沢はキョトンとした顔で俺を見ていたが、その表情が強ばったと思った瞬間、俺は何者かに後ろから羽交い締めにされた。
「……芹沢、だったか。随分勝手してくれたなぁ」
さっき早川にやられた林という男だった。
「チッ……寝てればいいのによ」
早川が唾を吐き捨てる。
背後から酸っぱい臭いがする。そういえば、さっきコイツ思いっきり吐いていたな……。
どうやら林は、早川と芹沢が共倒れになる隙をうかがっていたようだった。
その絶好の機会を止めようとした俺が、今度は人質になってしまった。
ノーッ!!
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