同じ夢 8
数学のプリントは――数学というか、ほとんどが算数だったが――とにかく難航した。
分数の足し算から始まったそのプリントを、芹沢は一問も答えられなかった。
九九まではかろうじて出来たが、割り算辺りからちょっと怪しかった。
これでよく高校に入学できたものだと驚いたが、我が校は「名前さえ書ければ入学できる」という噂もある。それはあながち間違いではないのかもしれない……。
通分を教えてやると、「そういや何となく覚えがある」とすぐ出来るようになったが、分数の割り算に関してはさっぱりのようだった。
「なんで分母と分子をひっくり返したりすんだよ!」
芹沢は、理由がわからないと頭に入らないらしく、「ワケワカンネー」と繰り返しながら髪の毛をかきむしっていた。
――俺は覚悟を決めた。
「分母と分子をひっくり返す理由を教えてやろう。とくと聞くが良い!」
とことんつき合ってやる!
……とっぷりと日が暮れた。
芹沢は詰め込まれた知識の量に圧倒され、机に突っ伏していた。
何だかんだで、芹沢は因数分解までマスターした。
「おめでとう。これで最後のプリントも終わった。ミッションコンプリートだ」
「おう……。これまでの人生で一番勉強したわ……」
芹沢が力無く笑った。
「改めて思ったが、キミは決して馬鹿ではないぞ。教えたことは理解できている。これまで疑問に対して真摯に向き合わなかっただけだと思われる」
「……うっせ」
「疑問に突き当たったら、それを調べるのが面白いのにな」
「そんなのお前だけだっ」
「そ、そうなのか……」
俺はシュンとした。すると、芹沢は少し慌てたように、
「でも、お前の話は面白かったし」
と、付け足した。
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