同じ夢 6
土曜日は英語プリントの和訳を終わらせることにした。
中学レベルの内容ではあったけれど、芹沢が小学レベルだったため、ゼロから教える羽目になった。
「……で、何でisとamとareは違うんだよ。どれもbeならbeでいーだろーがよ」
「俺に文句を言わないで頂きたい。でもまぁ、俺が思うに英語圏では日本と比べると、『自分とそれ以外』『個人と複数』の違いに非常に敏感なのだと思われる」
「どーゆーこと?」
「日本人はよく『私たちは何々です』って言うよな。しかし、英語圏で迂闊にweを使うと、『ちょっと待って。あなた誰に断って何の代表のつもりなのかしら。少なくとも私はそんなことを思ってないんですけど!』という感情が働くらしい」
「イエス・ウィー・キャーン、とかよく言ってるじゃねーか」
「大統領は国民が選んだ代表だから、それは問題ない」
「あ、そーか……」
「というわけで、感覚で覚えると良いと思われる。『単体』である確認が必要だからis、『自分』の発言には責任を持つからam、『みんな』と『あなた』が大事だからareだ」
「お、おう。何かそう言われると、すげぇ大事なコトのような気がしてきた」
「すげぇ大事だ」
疑問をひとつひとつ解決してやるとちゃんと覚えてくれるので、芹沢は案外教え甲斐のある生徒だった。
プリントを終わらせるだけなら俺が全部訳してやってもいいのだが、それでは芹沢のためにならないと思い、睨まれても脅されても翻訳には口を出さなかった。
さすがに語彙力不足は否めなかったが、そこは俺が口を挟んで辞書を引くストレスからは解放してやれたと思う。
昼食とおやつ休憩を挟みつつ、夕方までに3枚の英文プリントを訳し終えた芹沢は、満足そうな表情でバイトへと向かった。
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