違う呼び名 5
「キミは悔しくないのか」
「ア?」
「俺は悔しい。ふざけんなと思う」
「……エ?」
いきなり声の低くなった俺に、それまで不機嫌そうだった芹沢が毒気を抜かれたような顔になる。
「キミがこれまでちゃんと授業に出ているのを俺は知っている。俺が手伝ってやるから、そのプリントは提出したまえ。是非とも唐草先生をギャフンと言わせてやってくれ」
……妙な沈黙が流れた。
「た、タカちゃん」
「その『タカちゃん』はやめてくれ。キミに言われるとムズ痒い」
「んじゃ、尊志ちゃん?」
「……。なんだね、皆慈ちゃん」
「ギャッ!」
芹沢が悲鳴を上げたので、俺はニヤニヤ笑った。
「おま、ちょ、どうしてくれんのよこの鳥肌」
「人を『尊志ちゃん』呼ばわりした男に責められると、こちらとしても大変不本意なのだが」
「じゃ、なんて呼べばいいんだよ」
「普通に太田でいいだろう」
「あー聞こえない。ずぇーったいソレ以外で呼んでやる」
「天の邪鬼め……」
「……ちゃんとプリント手伝えよ」
ほんのりと顔を赤くしながら、芹沢は俺の頭を小突いた。
「ああ。キミもちゃんと手伝われたまえよ」
「ギャハハ、『手伝われたまえ』って」
「あとな、唐草先生の授業はなるべく目を開けていたまえ」
「うっ、ぐ、ど、努力はする……」
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