違う呼び名 4
放課後、芹沢はなかなか本屋に現れなかった。
たっぷり一時間ほど待たされたあげくに、不機嫌そうな顔をしながら現れた芹沢の第一声は「もう帰ってると思った」だった。
「他に言うべきことがあると思うのだが」
俺がムッとしてそう言うと、芹沢はフッと表情を和らげた。
「そうだな。ワリィ、教室出たトコで唐草に捕まった」
唐草というのは、日本史の教師だ。剣道部と風紀委員の顧問でもあり、噂ではかつて剣道で全国大会に出場した猛者だそうだ。学校の不良どもも一目置くというか、恐れられていた。
「授業中寝てるヤツにホイホイと単位はやらん、とか何とかボロクソ言いやがって。あげくに山ほどプリントよこしやがってよ」
「それは災難だったな。では今日は漫画どころではないか」
「アホか。先公の言うことなんぞ大人しく聞くかっつの」
芹沢は鼻息荒くそう吐き捨てたが、俺は眉を顰めた。
「……キミ、そのプリントはちゃんとやった方がいいと思うぞ」
「ア?!」
「噂だけかと思っていたが、どうやら唐草先生は遅刻者、早退者、居眠りした者は容赦なく欠席扱いにするらしい」
「……!」
「プリントを渡して来たのは、むしろ救済措置だろう。大人しく提出するべきだと思われるが」
「知るかッ!」
芹沢は不快そうな表情でそっぽを向く。基本的に先生の言うことを大人しく聞けない性質なのだろう。
昨日までに小耳に挟んだ中学時代の芹沢の噂といえば、目が合っただけで半殺しにされただの、夜な夜な不良のたまり場に単身で殴り込みをかけてただの、『狂犬』と称される荒れた生活だった。もちろん尾ひれはついているのだろうが。
そんな男が、毎日学校に来て(寝ているとはいえ)大人しく授業に出ているというのは大したことだと思うし、きっと何か目的があるのではないだろうか。
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