違う呼び名 3
「……ま、いいや。とりあえず放課後、昨日の本屋な」
「わかった」
芹沢も一応、気にしていたらしい。
「ところでそれ……」
芹沢が指したのは、俺の弁当のおかず。昨日のうずらの玉子入り煮込みハンバーグだ。
どうやら本当に気に入ってくれたようで、食い入るように見ている。
「ほれ」
ハンバーグを箸でつまんで芹沢の顔の前まで持ち上げると、芹沢は躊躇することなく囓りついた。
途端に横の方から黄色い声が上がる。
ああ、そういえば我がクラスにもいたのであった。この手のシチュエーションを喜ぶ強者が。
「ンまい」
芹沢は周囲を気にすることもなくハンバーグを咀嚼している。
「粉ふき芋も食べるかね」
「食う」
芹沢は俺の隣の椅子に腰掛けた。
「あーん」
「あー、んぐ」
「卵焼きも食べるかね」
芹沢はこくりと頷いた。
俺は腐女子どもがキャアキャア騒ぐ気持ちが少しわかった気がした。
大人しく餌付けされる芹沢はちょっとばかり可愛かった。
調子に乗って次々にあげていたら、「お前が食うの無くなったじゃねーか」と芹沢は手にしていたパンを俺の口にねじり込んだ。
――その時から俺は、誰からも『キモオータ』と呼ばれなくなった。
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