違う呼び名 2
「……今、俺を馬鹿だと思っただろ」
「い、いや。キミの下の名前は俺も知らないな、と思ったのだ」
芹沢のガン付けに思わずそんな言葉が口から出てきた。
「ア? あー、俺の名前な。カイジだ」
脳内に、某博打漫画の主人公の顔がよぎる。
「どんな漢字かね」
「皆様のミナに、えーと……えーと」
自分の名前の漢字も説明できないらしい。
「……今、やっぱり馬鹿だと思っただろ」
「指で書きたまえ」
「……チッ」
芹沢が宙に書いた文字は、『慈』だった。皆慈。
「素晴らしいな」
「馬鹿にしてんのか」
「皆を慈しむという意味だろう。良い名だと思うが」
「……おい」
「何だろうか」
「イツクシム、ってなんだ」
俺は思わず大爆笑した。
クラスメイトがギョッとした顔で一斉にこちらを振り向いた。
ああ、そういえば学校で声を上げて笑ったことなどこれまで皆無かもしれない。
芹沢が不機嫌そうに口をとがらせたので、くつくつ笑いながらも「悪い」と謝った。
「目下や弱き者を大切にするという意味だ。正義の味方のようだな」
説明してやると、芹沢はパッと顔を背けた。みるみる耳が赤くなっていく。
「うちの親は、俺になんちゅー似合わん名前を……」
苦虫を噛みつぶしたように呟く芹沢に、俺はまた笑ってしまった。
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