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違うアイツ 5
 アイツはちょっと変わったヤツで、人の区別のできない俺が遠目からでも見分けられる数少ない男だった。

 ガリガリの猫背で、ペタッとした黒い髪の毛。

 長い前髪に埋もれるような黒縁の眼鏡。

 いつも無口で無表情のくせに、ヒョコヒョコとオモチャの兵隊のように歩くので、目に入る度に吹き出しそうになった。

 ひよこの中に、一匹だけ不格好な雛が紛れているような感覚。

 周囲のヤツラはあれを気持ち悪がっていたけれど、周囲を突っぱねるでもなく、気にもしていないといった飄々とした雰囲気が印象的だった。



 俺は本屋が好きだ。

 けれど、漫画を立ち読みしているのは知り合いに見られたくない。

 無防備な自分を見られるようで、どうしても気恥ずかしかった。

 だから、漫画コーナーに立ち寄るのは、制服のやつらがいない時だけ。

 それほど注意していたにも関わらず、その日はたまたまアイツに遭遇した。


 アイツは俺の好きな格闘漫画を手にしていた。

 オタクといえば、キモチワルイ女がいっぱい出てくるような漫画を読んでいるものだと思っていたので驚いた。

 俺がそう言うと、アイツは何だかよくわからん古めかしい言葉遣いで怒った。

 最初のうちは俺に怯えてる風だったのに、案外はっきりと物を言う。

 漫画を貸せと言うと、貸さない代わりにアイツの家に招待された。

 理由を聞くと、「仲間だろう」と言われた。



 アイツは俺のことをちゃんと見てくれた。

 ただの記号に過ぎなかった俺の名前の意味も教えてくれた。

 落ちこぼれていくだけだった俺に勉強も教えてくれた。

 俺の夢を笑わず、手を差し伸べてくれた。



 それなのに……眼鏡を外したアイツを見た時、ソレが誰なのかわからなくて、一瞬女かと思った。

 中身は間違いなくアイツなのに、俺には顔だけじゃ誰か見分けがつかない。

 はぐれた時、とてつもない喪失感に襲われた。

 これまでそんな不安など感じた事はなかったのに。

 探せばすぐに会えたけれど、その後は怖くて手を離したくなかった。

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あきゅろす。
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