同じ趣味 8
書斎に戻ると、俺は大雑把に本棚の説明をした。
「この辺が俺のエリアだ。少年漫画が多めだな。作者名順に並んでいる。こっちが母のエリアで、ほぼ全て少女漫画だ。その辺が父のエリア。サラリーマン漫画と4コマ漫画、名作の愛蔵版が多い」
「ほー。意外と萌え系がねーんだな」
「……いや、ある。読みたいのか? そちらの棚にあるが、興味本位ならやめておきたまえ」
「あ? これも本棚なのか?」
奥の壁は隙間なく並んだ本棚が丸ごと壁の中に収納されるスライド式になっており、外から見るといくつも縦に切れ目のある取っ手のついた壁のようになっている。
芹沢はいたずら小僧のような顔をしながら、おもむろに引き出しをガラッと引いた。
「……うおっ?!」
「その辺は特に危険地帯だ」
そこは姉貴の蔵書エリアであり、姉貴はBLをこよなく愛する23歳女子だ。
OLになってから金に糸目をつけなくなった姉貴の蔵書量は家族の中でも随一であり、この部屋に入りきらない本をさらに自室に置いているほどだ。
姉貴曰く、この部屋には「初心者向け」を置いているそうだが……。
男の俺からしてみればかなりハードルが高いと思う。
「エロ漫画まであんのかよ……」
芹沢が手に取ろうとしたので、俺が「その辺はあらかたホモだ」と言うと慌てて手を引っ込めていた。
微妙な顔で俺を見る芹沢。
「そんな目で見るな。決して俺の趣味ではないし、注意した理由がわかっただろう。ただ、有名作家がデビュー前に出した同人誌もあるから、お宝がないわけでもない。読みたいなら探してやるが?」
「い、いやいい……」
「いわゆる一般人が萌え系と呼ぶ漫画は、こっち側の棚にある。でも、今日のところはこの漫画の1巻から読むのだろう?」
「おう、頼む」
俺は本日58巻が出たその漫画を本棚から何冊か取り出し、空いたところにブックエンドを置いた。
「とりあえず、この程度でいいか?」
「うおー、今と全然絵がちげー」
「デビュー当時から緻密で上手いが、まだ堅さがあるよな。15巻くらいから今の絵とほぼ変わらなくなる」
「へぇー」
芹沢は床にペタンとあぐらをかいて座ると、さっそくページをめくり始めた。
それを見届けると、俺は今日買ってきた新刊のビニールを破った。
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