同じ過ち 5
店内を見ると、ほとんどが女性客だった。前に小山内と来た時より随分と客が増えているのがわかる。
テーブル席は全て埋まっており、カウンター席に案内された。
カウンター越しにマスターが作業する姿を眺めていた母は、ポーッと頬を染めて興奮しっぱなしだ。
「カイ君も格好いいけど、マスターもハンサムねぇ……」
「それはどうも」
オープンキッチンの中から、白い歯を光らせてマスターが笑った。
「マスターはイタリアの方ですか?」
「半分だけね。マンマ直伝の料理よ」
「まぁ、本場の味なのねぇ」
彫りが深いと思ったらハーフかぁ、と思いながらマスターの顔をマジマジ見ていたら、目が合ってバチッとウインクをされた。
「マスター、男にまで媚び売らんで仕事して下さい」
芹沢が冷たくツッコミを入れた。
「ん? 誰が男?」
「そいつ」
「あらら? ホントに?」
「嘘つく意味ないでしょうが」
「俺に彼女取られたくないとか?」
「だから、女じゃないっつーの」
「へぇ……。あ、俺、ゲイに偏見ないから大丈夫よ」
「何が大丈夫だっ!」
そんなツッコミどころ満載な会話が繰り広げられていたが、俺はトマトソースのパスタを黙々と口に運んでいた。
何故なら今日は漫画の新刊が出ているのだ。何としてもバイトの前までに手に入れて、読み終えなければならない。
食事を終わらせると、俺は母と別れて一人本屋へと向かうことにした。
思えばそれが運命の分かれ道。
「バイトの時間までには戻るのよぉ」という言葉を背中に受け、返事を返そうとしたその瞬間。
俺は数人の男たちによって黒塗りの車の後部座席に放り込まれたのだった。
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