通りすがり以上 5 おじさんは、レジでマイルドセブンを3カートンも買っていた。 煙草が値上がりし続けるこのご時世、酔狂だなぁと私は思った。 「お嬢さんの家の近くの公園で待ってるヨ。知らないオッサンが家までついて行くなんて物騒デショ」 そう笑いながら、私の荷物も持ってくれた。 もちろん遠慮したのだけれど、 「いいのいいの、これは人質だから。あ、人じゃないからモノ質?」 と、笑って言った。 私はおじさんを近くの公園まで案内すると財布を取りに走った。 五千円を握りしめて戻ると、おじさんはブランコに腰掛けて、ぼんやりと煙草を吹かしていた。 「……おじさん、哀愁ただよってるよ」 私が横から声をかけると、おじさんは笑いながら携帯灰皿で煙草の火を消した。 「五千円、ありがとうございます。本当に助かりました」 「いえいえ、どういたしまして」 おじさんは五千円を胸ポケットにしまいながら、買い物袋を引き渡してくれた。 「お嬢さん、その制服って花椿デショ。花椿の生徒とスーパーのタイムセールで出会うなんて驚いたヨ」 おじさんのそんな言葉にカァッと顔が赤くなる。 安売りの品に飛びつくなんて花椿の生徒らしくない。 別に悪い事じゃないのに、何だかすごく恥ずかしかった。 「……残念ながら、うちは金持ちじゃないので」 そう小声で呟くと、おじさんの顔がパァッと明るくなった。 「ってことは、やっぱり特待生?」 「……え?」 「実はこんなオッサンにもお嬢さんと同じ年頃の娘がいてネ。奇遇にも花椿に通ってるの。だから、お嬢さんがどれだけ勉強を頑張ったのか解るつもり」 そう言っておじさんは破顔した。 「……おじさん、娘さんがいるの?」 「あれ、そこ意外? こんなオッサンだヨ?」 「絶対に女っ気ないと思ってた。レジ袋の中身、煙草にビールに唐揚げだもん。それに、そんなヨレヨレの服着てたら娘さん嫌がらない?」 「うはッ、なかなか鋭いネ。オッサンはバツイチでした。自慢の娘にはたまにしか会えないの」 それを聞いて、私は身体がこわばった。 [*前へ][戻る][次へ#] |