通りすがり以上 2
「では、この問題は青葉さんに解いてもらいましょうか」
そう言って、クラスの担任でもある数学の先生がにっこり微笑んだ。
私は黒板の前に立つと、カツカツとチョークを走らせる。
簡単な三角関数の問題だった。
「はい、正解です。さすが青葉さんですね」
先生がそう言うと、生徒たちから「すごーい」と次々に声が上がった。
……女子というものは、基本的に数学が苦手な人が多いらしい。
私はこの学校では珍しいタイプの人間のようだけれど。
数学はわりと得意だ。正解が一つしかない、というのが良い。
私は自分で言うのも何だけれど、そこそこ美人だと思う。
私から見ても美人で魅力的な母が、「私の若い頃にそっくり」とよく言うから。
背中の中ほどまであるサラサラのロングヘアのせいで、中学時代はよく大和撫子なんかと勘違いされていたけれど、男に都合良く生きるなんてまっぴら御免だ。
おしとやかに見えるのは、内申点を気にして大人の前で素行が良いだけだと思っている。
私に対する幻想は男子のいない花椿女学院でも続いていた。
数学が得意というだけで生徒会会計という肩書きがつき、私の顔が全校生徒に知れ渡った途端。
――美しくて、賢くて、気高い青葉様。お慕いしております。
なんていうラブレターをこれまでに何通もらった事か。
はぁ。世間知らずのお嬢様はよく解らない。
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