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嫉妬未満 5
 ――別れた女房・加奈子との間に出来た一人娘、ユミが久しぶりに俺に会いに来た。



「お父さんは邪魔だから座ってて」

 娘にワンルームの部屋の隅に追いやられた俺は座布団の上に渋々腰を下ろし、煙草に火をつけた。

「あっ、煙草に火をつける前に吸い殻捨てないと。もー、いつか火事になるからね」

 プゥッと頬を膨らませて、ユミが吸い殻が山盛りになっていた灰皿を狭い台所に持っていく。

 ちゃんと一度水で湿らせてから捨てるあたり、加奈子の躾は行き届いているようだった。

 ユミは灰皿を洗って俺に渡すと、制服の上からエプロンを身につけ、危なっかしい手つきで料理を始めた。


 娘は俺が30代後半にさしかかった頃に生まれた。

 ちょうどその頃の俺は大災害や無差別殺人事件の取材にかまけていて、ほとんど家に帰る事がなかった。

 そうして書き上げた記事に胸を張りこそすれ、後悔はしていない。

 もし過去に戻る事が出来たとしても、きっと俺はまた同じ事をするだろう。


 ただ、居ても居なくても同じような俺を何年も待ち続けた加奈子と、父親の顔をほとんど見る事なく育った娘には気の毒な事をしたと思っている。

 たまに帰れば喧嘩が絶えず、最後にはノイローゼになってしまった加奈子。

 俺と別れた後は早々に起業して女社長となった彼女が女手ひとつで立派に育て上げた娘の姿見ると、きっとこれで良かったのだとも思う。


 俺が娘と再会したのは、ユミが中学生になってからだった。

 加奈子から死んだと聞かされていた父親が生きていると知ったユミが、加奈子に涙ながらに懇願したらしい。

 妻もその頃には事業が軌道に乗り、心に余裕ができたようで、「そこまで言うなら」と面会を許してくれたのだった。


 とはいえ、俺の記憶の中のユミは立ち上がる事もできない小さな生き物で、目の前の少女が血の繋がった娘だという事実に今でも少し困惑している自分がいる。


 そんな事を考えていると、ピーピーと米が炊きあがった音がする。

「お父さん。そろそろカレーも出来上がるから、机の上を片づけておいて」

 その言葉とほぼ同時に、いい臭いがこちらまで漂ってきた。

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あきゅろす。
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