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憧れ以上 5
 その翌週から私は、毎週水曜日には本屋に立ち寄るようになった。

 週刊民潮の発売日だからだ。


 芸能人のゴシップなどは読む気にならなかったけれど、安曇野さんの記名記事を見つけると、その週末は図書館で安曇野さんの記事をコピーするようになった。

 記事を書いた本人に出会って親近感が沸いたというのもあるけれど、安曇野さんの記事はすごく興味深かったのだ。


 安曇野さんの記事は主に政治経済のものが多く、難しい用語がたくさん出てくるのに解りやすくて、「ああ、そういう事だったのか」と為になるものばかりだった。

 バックナンバーを見ていくと、数ヶ月前にある官僚が逮捕されるきっかけとなったのが安曇野さんの記事からだったと知り、愕然とした。


 安曇野さんは取材から推論を打ち立て、証拠を探しだし問題を提起する。

 その文章はあくまでも中立的で、いたずらに読者の不安を煽るような厭らしさはなかった。


 こんな記事を書くくらいだ。家に帰る暇も無く、寝る間も惜しんで取材をしただろう。

 その姿が目に浮かぶようだった。

 取材だけではない。推論を導き出すための膨大な知識も持ち合わせている。


 ――すごい人なんだ。


 私は胸が高鳴るのを感じた。

 ついこの間まで、「人生がつまらない」なんて思っていたのに。


 世の中の事をもっと知りたい。


 そう思った瞬間、目の前の景色がパアッと明るくなったような気がした。

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あきゅろす。
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