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憧れ以上 2
「一昨日、私が財布を忘れて困ってる時に、五千円を貸して下さったんです」

 その節はありがとうございました、と頭を下げると、おじさんは照れまくりながら首を掻いていた。

「お前にそんなお節介な一面があるとはねぇ……。何か裏でもあるのか?」

「あのな、こんな人畜無害なオッサンに対して失礼な」

「お前が無害? はぁ?」

「……にゃろ」

 おじさんはそっぽを向いて拗ねた。

 私はくすくす笑って、「おじさんはいい人ですよ」と言った。


「お嬢さんは人を見る目がないね。こいつはバツイチよ、バツイチ。こんなのがイイとか言ってたら、将来悪い男に引っかかって泣くのがオチよ〜」

「ウサギッ!」

 私の表情が翳ったのに気がついたおじさんは、目の前の男をバシッと叩いた。

「イテッ、何すんだ」

「こんな若いお嬢さんに言うような事か。セクハラだセクハラ」

 おじさんがそう言うと、ウサギという可愛い名前らしい小太りの男はバツが悪そうに黙り込んだ。


「ご心配ありがとうございます。でも私、結婚するつもりないですから、悪い男に騙される事もありません」

 私がそう言うと、ウサギさんは慌てた。


「ちょ、待った。ダメダメ、こんな美少女が結婚しないとか社会の損失だから!」

 彼は財布から名刺を取り出し、私に差し出した。


 その名刺には、「週刊民潮編集部編集長 宇鷺美雅」と肩書きが書かれていた。


「ワタクシ、怪しいものじゃありません。キミ、輝いてるよ。ビビッと来たよ。数多の芸能人を見てきた私が言うんだから間違いない。ウチの雑誌でグラビアを飾れば、トップアイドルも夢じゃない!」


「宇鷺……お前、タチの悪いスカウトにしか見えねぇヨ」


 おじさんがため息をついた。

 私もその名刺は怖くて受け取らなかった。

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あきゅろす。
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